Targetが在庫管理すべき商品は7万5000種類に及んでいた。それら商品のひとつひとつに、大量のデータが紐付けられている。商品の管理に必要なデータは、パッケージの高さ、幅、奥行きだけではない。納入業者、UPCを始めとする各種のコード、価格、重量、原価など、データの種類は多岐にわたる。そのため、商品のひとつひとつに対し、数ページに及ぶ大量のフィールドへのデータ入力が必要だった。
しかし、Targetは既存のデータ入力システムをカナダまで拡張していなかったので、すべてのデータをエクスポートするか、すべてを一から再入力する必要が生じた。再入力に伴い、幅のフィールドと長さのフィールドの取り違えが起きた。間違った価格が入力された。間違った説明文が入力された。職位の低いマーケティングアシスタントたちが、非現実的な納期で、膨大な数のフィールドへのデータ入力を強いられた。
結果として、間違ったデータが入力されたフィールドは実に全体の70%に達した。
一方、各店舗の在庫管理システムでも問題が発生した。周知のとおり、在庫管理システムは売れ筋商品の販売を優先するように設計されている。そうした売れ筋商品の典型は、紙オムツだ。店舗の周辺地域に住む家庭の多くが乳児を抱えている場合、紙オムツは継続的な需要を確実に生み出してくれる。
通常、店舗で紙オムツの在庫が減少すれば、在庫管理システムが状況を正しく把握し、配送センターに紙オムツの補充をリクエストする。しかし、在庫管理システムが的確な判断を下すためには、周辺地域における紙オムツの需要を正確に予測する必要がある。Targetの場合、ベースとなる予測モデルの作成はビジネスアナリストたちの仕事だった。
各店舗における消費者の動向と商品補充の予測モデルを作成するには、言うまでもなく、当該地域の購買層とその心理に関する、ある程度の分析が不可欠だ。
だがTargetのアナリストたちは、特定商品の在庫が底を突きそうになると、その事実を示すデータを訂正(というよりは隠匿)した。在庫管理システムは、在庫が減少した商品を自動的に発注する。そのため、特定の商品が想定外の売れ行きを示したり、その在庫が払底したりした場合、その事実が数値として白日の下に晒される。これは言わずもがな、予測モデルを作成したアナリストに対するネガティブ評価に直結する。
そこで頭の切れるアナリストたちは、なんと在庫減少の通知機能をオフにした。にわかには信じがたいことだが、Target Canadaの在庫管理システムでは、在庫減少の通知機能がオプション扱いだったらしい。そのため、在庫減少について批判されそうだと気付いたアナリストたちは通知機能をオフにして、在庫減少に関する情報の隠匿を始めたのだ。