面接官の使命
彼は今年度の新卒生に対する面接官を務めることになった。見ず知らずの人間の能力というものを評価し、どの人を採用するべきかどうか判別しなければならない。大変難しい仕事である。そのときにどんな要素が重要だろうか。これまでも過去の面接官の担当をした先輩たちの意見を参考にしてきた。
困ったことにそれぞれ異なるポリシーを持っていた。まあ人間のことだ。それは仕方がないことだ。そのポリシーというのは、先輩たちなりに「学習」してきた成果であろう。面接時の印象、入社してきたときに感じた印象、これらは一致していただろうか。そして働いてみての実績と比較して、自分たちで抱いていた印象と同じだったか、異なっただろうか。その比較を通して、彼らは彼らなりのポリシーを築いていったのだ。
機械学習は、あてずっぽうではなく、人間がやってきたことを機械にやらせるのに適している。それぞれ異なるポリシーができたのは、「学習」のやり方の違いや、同じかどうか異なるのかどうかという指標が違うのだ。ばねの話であれば、ばねの長さが合うことを大事にする人もいれば、長さはどうでもよい、伸びていく割合だけは緻密に合っていないと困るといった人もいるということだ。
そこで彼は、機械学習に頼ることにした。今現在働いている人の評価と、採用時面接のときのさまざまな評価項目がきっとある。そのデータを活かして機械学習による面接官システムを実現してみよう。人間のあいまいな記憶と経験よりも、数あるデータから学習した方が客観的でぶれない判断が可能であると考えた。
その人材の評価値を出力として、入力となるのは評価項目である。受け答えの良さ、将来ビジョンの明瞭さ、学生時代の学習度合い、所属外での活動度、さまざまな項目を入力とした(図3)。

図3:人事システムの構築
さて機械に「学習」をさせよう。この場合、過去のデータが大量(表1)にあり、それなりにさまざまな人材を目にしてきたことだろう。その場合には突拍子もない変な相手ではない限り、それなりの評価値を予言してくれるシステムができることだろう。彼は面接官として最高のパートナーを得た。このシステムで、いろんな人材の未来を評価することができる。社内でも評判上々。彼は人事部の中で確かな地位も得ることに成功した。

表1:ある社員が打ち込んだデータの様子
ある日、社内で上司からこう聞かれた。
「君の人選は中々に優れているが、一体全体どこを見ているんだい?」
「あ、そうですね…(機械に全て任せているからな~)。それは秘密です」
上司はけげんそうな顔で「そうか…残念だ」と言い残して去って行った。誠に残念な限りではないか。その知識を社内で共有できたら、と考えて上司は聞いたにちがいない。しかし肝心の彼はそれに答えることができなかったというわけだ。