場合によってはUI/UX設計部の機能をほとんどアウトソーシングすることもありうる。しかしその場合にも、UI/UXに関することがらを広く充分に理解している人たちが委託する組織側にいる必要がある。
さもなくば、アウトソーシング先との意思疎通がうまくいかなかったり、できあがってきた「設計」を適切に評価できなかったり、適切に実装、使用できなかったりなど、さまざまなロスが生じる。設計や開発の場合だけでなく、ユーザーテストや調査をアウトソーシングするような場合も同様である。
また、製品やサービスまたがった統一的なUI/UXを見る役目の人たちは組織内にいたほうがよい。例えば組織全体のブランドイメージの策定などには外部の力を借りても、それを運用して、浸透させていくには、内部のさまざまな人々の協力が必要となり、それをまとめて導くのは組織内の人のほうが適切である。
また、人々の協力を充分に得るためには、UIやUXについての理解が全体に広まっているほうがよいが、それを推進すべきは主として組織内の人の役割である。
一方で、UI/UX設計部の分かりやすい成功事例を早い段階で作るため、また、(これは初期には限らないが)内部の人材をより成長させるために、リソースが足りていても積極的に外部の事業者との連携するのもよい戦略だろう。成功事例は、結果だけではなく、そこに至る過程もUI/UXの向上の推進のために重要である。
最後に
途中で何度か「UIやUXを考慮することに対するメタなエクスペリエンス」ということに言及した。
個々の製品やサービスに対する UI/UXデザインに取り組むにあたってはあまり重要でないことがらと思えるかもしれないが、組織全体での UI/UXの向上の取り組みという視点からはとても重要である。また、それを意識することで、UXデザインに必要な能力を一層育てることができるであろう。
次回は、粒度の大きなUXと小さなUXの扱いの違いなどについて考えたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。 ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。 HCI が専門で、GUI、実世界指向インタフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。