これらデジタルビジネスが創るつながりは一企業が抱える従業員や顧客に限定されるものではなく、さまざまな事業、個人、そして世界中のすべての産業が生み出すモノにつながるグローバルネットワークへと発展する可能性を秘めている。
そして、これこそが企業同士が連携することで、以前は不可能だった方法で新たな顧客体験、そして具体的な成果を創出する新たな市場を精製する「デジタルエコシステム」であり、その中でポジションを確立することは決して容易ではないが、その努力の先には莫大な利益が生み出される可能性がある。
ここで、この章の冒頭の問いの答えとなるが、デジタルビジネス=デジタルエコシステムであり、このつながりを支えているのは、デジタルテクノロジであるクラウドサービスである。クラウドサービスを導入することが、このデジタルエコシステムへと参画する重要な第一歩となるのである。
日本の組織構造について
さて、ここまで、進めてきた話をまとめると、以下の2つとなる。
- 日本のクラウドサービス導入率はまだ低く、使うことが当たり前のサービスとはなっていない
- デジタルビジネスへの変革がここ数年の大きな経営課題であり、その変革を実現するための基盤はクラウドサービスである
では、なぜ、デジタルビジネスへの変革が大きな経営課題であり、その打ち手としてクラウドサービスの導入は有効であると米国では既に実証されているにもかかわらず、日本においてクラウドサービスの導入が、遅々として進まないのか原因を考えていきたい。
ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析
まず、最初に日本型経営での意思決定に触れておきたい。日本型経営の意思決定は主に稟議制度に代表される合議主義、ボトムアップ方式の意思決定である。
稟議制度とは、「HR Pro」によると、「上位者の決定が必要な重要な事項や、自己の権限を越える事項を、稟議書を作成して、回覧や持ち回りなどをして関係者の決裁をもらう制度」であり、そもそもこの稟議制度は、日本独特の決裁システムで、組織に置ける上下関係を大切にする日本企業においては、重要な意思決定プロセスであると定義されている。
要は、実質的な決定は現場でなされており、上位者は調整ごとや追認をするだけという状態が多くなる仕組みである。これを踏まえたうえで、次のデータを見ていきたいと思う。
図3は、日米企業のIT投資の重要性を聞いた調査結果のグラフである(企業戦略を担う経営層や事業部門等の「非IT部門の責任者」を対象)。
(図3)IT/情報システム投資の重要性(JAITA提供)
両国間でのIT投資に対する姿勢の違いを見てみると、非常に大きな違いがあった。米国では「きわめて重要」が75%に達する一方、日本は16%に留まっている。