PayPalとJECCICAが「EC戦略白書」発表、EC企業と顧客の認識差が浮き彫り

取材・文:阿久津良和 構成:羽野三千世

2016-03-04 07:00

 PayPalと一般社団法人ジャパンEコーマスコンサルタント協会(JECCICA)は3月2日、中小規模のECサイトを運営する企業向けに作成した「中小EC企業向け・2016年EC戦略白書」に関する説明会を開催した。


PayPal東京支店カントリーマネージャーのElena Wise氏

 この白書は、PayPalが2万人のECサイトユーザーと1000社を超える中小EC企業を対象に実施した調査結果に、JECCICAの知見を加えたもの。PayPal東京支店カントリーマネージャーのElena Wise氏は、大手のECサイトが市場を席捲して経営に苦戦している中小EC企業に向けて、ユーザーはどのような理由でECサイトを選択するのか、中小ECサイト運営者はどのような視点でビジネスを強化して価値を提示できるのかといった課題解決策を示すことが同白書作成の目的だと説明した。

 JECCICA代表理事の川連一豊氏は、今回の白書はPayPal側からの依頼を受けた形ではあるが、中立公平な立場で作成に協力したと説明。経済産業省が2015年5月29日に発表した電子商取引実態調査結果を引用して、「EC市場は2014年に流通総額が12兆7000億円に達し、2021年には2014年の2倍にあたる25兆円を超えると予想しているが、現在多くの中小EC企業は課題を抱えている」(川連氏)と述べた。

「会員登録への抵抗感」の認識にギャップ

 同白書によると、調査対象ユーザーにおける百貨店などを始めとするモール系ECサイトの使用率は87%、楽天市場やAmazonなどの大手ECサイトは45.2%、そして中小ECサイトは7.3%と低水準に留まっている。ユーザーは商品数の多さや知名度から大手ECサイトを利用しており、中小ECサイトの利用回数は年4.4回程度だった。

 ユーザーが中小ECサイトを利用しない理由として、(1)存在が知られていない(44.5%)、(2)会員登録が面倒(34.4%)、(3)商品数の少なさ(25.6%)、(4)セキュリティ面の不安(17.5%)--の順で回答が多かった。商品の少なさやセキュリティよりも、「会員登録が面倒」という理由の方が強いことは注目に値する。

 特に、中小ECサイトへの会員登録については96%のユーザーが抵抗感を持つことが明らかになった。さらに、会員登録せずに購入可能なサイトでは、住所や生年月日といった個人情報を正しく入力しないユーザーが50%超(会員登録しないと購入できない場合は約39%)にもおよぶ。各ECサイトが会員を確保してメールマガジンを配信するこれまでの成功モデルが、今は逆にビジネス拡大の妨げになっているという。


JECCICA代表理事の川連一豊氏

 この調査結果を踏まえて川連氏は、中小EC企業はユーザーの「囲い込み戦略」を止めるべきだと断言した。国内ECサイトの売上トップ100社のうち会員登録を必須とするサイトは7割。それに対して、米国のECサイト売上トップ100社で会員登録が必須なのは2割程度だ。さらにトップ25社に絞ると、国内21社に対して米国は2社となる。「すでに、グローバルトレンドはゲスト購入に移行しつつある」(川連氏)。

 この数値を裏付ける情報として興味深いのがEC企業とユーザーの回答のギャップである。例えば、「ユーザーは会員登録を嫌がっていない」と認識しているEC企業が49%であるのに対して、「会員登録にまったく抵抗感がない」と回答したユーザーは4%だった。また、メールマガジンが有用だとする割合はEC企業が43%、ユーザーは4%。このようにEC企業とユーザーの意識差は大きい。「ゲスト購入の選択肢を用意し、販促は会員登録を行ってから実施すべき。まずはユーザーに体験してもらうことが大事だ」(川連氏)

“カゴ落ち”対策には送料などの明記を

 EC業界では“カートに入れてから購入せずにサイトを離れる”現象を「カゴ落ち」と呼んでいるが、中小ECサイトを対象にした調査結果では、「より安いサイトがあるからカゴ落ちするのではなく、送料などが最初に提示されていないことを理由にしているユーザーが多い」と川連氏。

 この傾向は日本に限らずワールドワイドで同様であり、EC企業は、ユーザーに対して決済時の不安を取り除く努力が必要だという。「ゲスト購入やカード決済の提供に加え、個人情報ポリシーやセキュリティ対応、送料などの明記が欠かせない」(川連氏)

EC市場のモバイルシフトの本格化に備える

 モバイルからのECサイト利用動向に関しては、興味深い調査結果となった。白書によれば、スマートフォンによるECサイトの決済割合は24.2%と、それほど多くない。「さまざまな分野でスマートフォン/タブレット利用率がPCを超えたと出ているが、EC市場は異なる」(川連氏)。一方で、年齢層を20代に絞ると、スマートフォンからの利用は男性37.5%、女性では65.2%と確実にモバイルシフトが進んでいる。今後、ほかのサービスと同様にスマートフォンからの利用が拡大していく見込みだ。その際の課題として、中小ECサイトの多くがモバイルサイトを正しく用意していないことが挙げられる。

 この解決策として、川連氏が提案案するのがID決済の導入だ。ECサイトの“囲い込み”を解消すると同時に、利便性と安全性という相反するメリットをユーザーに提供できるため、今後の主流になると川連氏は推察している。また、クレジットカード番号などの個人情報はID決済運用者が保持するため、ユーザーと中小EC企業両者に安全性を提供するメリットがあることも強調した。


PayPal東京支店 SMBセグメント統括兼戦略統括部長の白石貴志氏

 PayPal東京支店 SMBセグメント統括兼戦略統括部長の白石貴志氏は、現在のExpress Checkout Shortcut(PayPalのID決済システム。ECサイトに設けたボタンからPayPalにログインし、情報を確認することで決済を可能にしている)に加えて、IDやパスワードを入力せずに決済を可能にする「One Touch」を今年中にローンチすることを明らかにした。

 One Touchは認証情報を格納することで、異なるECサイトで購入する際もIDなどの再入力を省くサービスだ。既に米国では2015年4月から展開中だが、日本を含めた140カ国で順次展開を予定している。

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