進むBIのセルフサービス化

表計算ソフトの処理能力を超えるデータ量--セルフサービスBIによって変わる市場

生熊 清司(ITRアナリスト)

2016-05-10 18:39

 前回、現在の企業が抱えている4つのビジネス課題として、ビジネス・イノベーション、ビジネス範囲の拡大、ビジネス・スピード、コスト削減を挙げた。それに対応するために次世代のデータ分析基盤には仮説検証支援、分析対象の拡大、分析準備期間の短縮、開発・保守コストの削減が必要となると指摘した。

 セルフサービスBI製品が注目されているのは、従来型のBI製品に比べ、これらの要件を満たしているからである。

 では、セルフサービスBIとは何なのであろうか。そしてなぜ注目されているのであろうか。セルフサービスBI製品は、その名の通りセルフサービス、つまりデータを利用する当事者であるビジネスユーザーが直接データ分析できる点が最大の特徴である。

 したがって、従来型BIツールに比べて操作が簡単でデータをグラフやチャートで表現することで、利用者がデータの持つ意味を簡単に理解できる工夫がされている。

従来型BIに見える課題

 従来型BI製品の導入と運用を担ってきたのは、他の業務システムと同様にIT部門である。ツールの利用者であるユーザー部門にヒアリングして得た要件を基に、分析用のデータや分析軸、レポートの出力形式などを設計して、システムを構築している。その結果、利用者は、最新のデータ確認や、過去との比較によるビジネス状況の変化を自由に分析できるようになった。

 ただし、ここで言う自由は、あくまで「事前に決められたデータの種類やレポートの出力形式の範囲内」であり、新たな分析用データの追加やレポート形式の変更を行う場合は、その都度IT部門の対応が必要となる。

 したがって、ビジネスユーザーが望んでも、他の業務との優先順位の関係で、対応に数カ月間を要したり、最悪の場合は対応してもらえなかったりする場合が生じているのが現状である。

データ分析の機動性に課題

 このような状況では、仮説検証のために何度もデータや分析軸を変えることも、分析対象を拡大するために、新たなデータを加えることは難しい。

 IT部門としてもビジネスユーザーからの要望に対して可能な限り対応したいと考えているが、必要なデータを準備したり、新たなレポートを作成したりすることは、場合によってはBIツール側だけでなく、データウェアハウス側の変更や追加作業を伴うために、片手間にできる作業ではない。

 現実的に既存のリソースの中で、利用者側が望むスピードでの対応は難しく、もし対応するために要員を増やそうとしても、そこにはコストの壁が立ちはだかっている。

 したがって、現場にいるビジネスユーザーが、IT部門に頼らず、自らの業務のために、自分自身で分析することができるセルフサービスBIが注目されているのである。

表計算ソフトの能力を超える処理データ量

 もう1つ、セルフサービスBIが注目される理由としては、ビジネスユーザーが分析に利用可能なデータの種類と量に変化が生じている点が挙げられる。

 これまでも、IT部門に対応してもらえない場合、ビジネスユーザーは、クライアントPC上の表計算ツールを利用して、BIツールなどからダウンロードしたり、手入力したりしたデータを使って、独自の分析を行ってきた。

 しかし、昨今のデジタル化の進展によって、ウェブやソーシャルメディアなどの新たな種類のデータが利用可能となり、データの種類と量が増えたことで、表計算ソフトでは処理できなかったり、処理できたとしても非常に煩雑になることが発生している。

 さらに、今後ビッグデータやIoTの利用が進み、相乗効果としてこれまで利用していなかった社内データの活用も推進されると、この傾向はさらに加速するであろう。その結果、セルフサービスBIは、表計算ソフトに代わるツールとしても注目されているのだ。

セルフサービスBIで変わるBI製品市場

 国内のBI市場の変化を調査データに基づいて見てみる。最初に、国内の市場全体をご紹介する。図1は2013年度から2019年度までの国内のBIツールの市場規模を示したものである。

 2014年度の市場規模は149億円で、2019年度には184億円にまで成長すると予測している。2019年度までの5年間のCAGR(年平均成長率)は4.3%となった。

 なお、2015年度以降は予測値。また、ITRのMarket Viewでは、BIツールの市場を「データ分析/レポーティング」と表記しており、市場規模は新規ライセンス売上げ(SaaS売上げも含む)とアプライアンス製品の売り上げを対象に算出しており、保守・更新ライセンス、教育、コンサルティング、導入支援などの売り上げは含んでいない。

図1:データ分析/レポーティング市場規模推移および予測 出典:ITR、ITR Market View:DBMS/BI市場2016
図1:データ分析/レポーティング市場規模推移および予測 出典:ITR Market View:DBMS/BI市場2016

 次に、最新の実績値である2014年度の売り上げデータから上位10社を選択し、各社のセルフサービスBI製品の販売状況別に前年比の平均を算出した結果を図2に示した。

 セルフサービスBI製品を主に販売しているベンダーでの前年度比146.5%と市場全体に比べて高く、逆に従来型BI製品を主に販売しているベンダーは98.2%と減少している結果となった。

 なお「セルフサービスBIを主に販売」には、QlikTech、SAS Institute、Tableauが含まれ「従来型BIとセルフサービスBIを併売」にはSAPとウィングアーク1stが含まれる。それ以外のベンダーは「従来型BIを主に販売」に分類した。現状の売り上げ規模では従来型BI製品が大きいが、将来的にはセルフサービスBI製品がBI市場の中心となる可能性がある。

図2:セルフサービスBIの販売状況から見た売り上げの伸び率 出典:ITR、ITR Market View:DBMS/BI市場2016のデータを基に算出
図2:セルフサービスBIの販売状況から見た売り上げの伸び率 出典:ITRの資料から作成、ITR Market View:DBMS/BI市場2016のデータを基に算出

 また、セルフサービスBI製品の導入の仕方にも変化がみられる。図3は2014年9月に実施したアンケート調査と2015年12月に実施したアンケート調査を比較したものであるが、これまでは、大企業を中心に多くの企業では何らかのBI製品が既に導入されており、セルフサービスBI製品は従来型のBI製品を使いこなせない、現場のビジネスユーザー向けに従来型BI製品を補完する目的で導入されると考えられていた。

 しかし、最近の調査結果では、既存のBI製品を入れ替える割合が高まっている。この結果からもセルフサービスBI製品がBI市場の中心となる可能性が伺える。


図3:セルフサービスBI製品の導入目的

 セルフサービスBI製品が主流になるにつれ、今後、導入を検討する際には、従来型BI製品との比較ではなく、各セルフサービスBI製品の特色を理解することが重要になると考える。なぜなら、セルフサービスBI製品といっても製品ごとに特徴があり、ベンダーごとに目指す方向性が異なっているからである。

 また、欧米の先進ユーザーでは、セルフサービスBI製品によって、ビジネスユーザーよるデータ分析が促進されたが、それによって新たな課題も発生している。

 次回は、セルフサービスBIが普及した場合に想定される課題点を踏まえ、今後、セルフサービスBIを導入検討する際の注意点について述べる。

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