アクセンチュアはデジタル領域に強い企業を合併、買収(M&A)する際の支援サービスを展開し、この分野へ注力する。大企業とスタートアップの「マッチング支援」や、デジタル領域の企業の強みを目利きする「デジタルデューデリジェンス」、M&A後の買収後のデジタル戦略を実行支援する「デジタルトランスフォーメーション」という3つの領域をサポートしている。
M&Aが必要な理由
なぜデジタル領域に強い企業のM&A領域に注力するのか。アクセンチュアは、日本企業の3割はイノベーションのために必要な人材などのリソース60~90%を自社ではなく、社外に依存しているという調査結果を紹介する。
同時に、3年前と比較し「イノベーションを起こせる人材の獲得がより困難」と感じている採用担当者は3割程度存在しているというデータを示し、人材獲得の難易度が上がっていると説明する。こうした状況に対し、手っ取り早くイノベーションに必要な人材を確保するため、デジタル領域企業のM&Aのニーズが高まっているという。
海外ではこの潮流はより本格化している。DaimlerやGeneral Electric(GE)といったグローバル企業では、デジタルビジネスに関する知見やノウハウを持つスタートアップ企業などを買収し、新たな経営モデルや事業モデルを構築する動きが加速しているとした。
戦略コンサルティング本部 マネジングディレクター 横瀧崇氏
例えばフランスのMichelinはタイヤの売り切りモデルから車両管理管理サービスの「Sascar」を買収したことにより、走行距離に対してタイヤの利用料を支払う、サービス形式のモデルを構築した。いわば「Tire as a Service」を提供するようになった。日本ではこうした「デジタル企業のM&Aにより新たな事業領域に展開している事例」を多くの業界でいまだもっていないのが現状とした。
一方、規模拡大が目的となるM&Aとは異なる評価手法やアイデアが求められている点を強調する。
アクセンチュアはこの3年で14社のデジタル企業を買収しており、従来型とデジタル領域でのM&Aの違いや成功のポイントをまとめ、サービス化したという。
同社は従来のM&AとデジタルM&Aの違いや成功のポイントを以下のように説明した。
従来のM&AとデジタルM&Aの3つの違いと成功のポイント
この中で、「価値評価の手法」についてアクセンチュアでは8つの指標を示している。「M&Aをする際、自社のデジタル戦略や優先順位に相手先のケイパビリティ(企業の組織的な能力)がどれだけ適合しているのか見極め、かつその能力の源泉は何かを探ることが重要」(戦略コンサルティング本部 マネジングディレクター 横瀧崇氏)
価値評価の指標
こうした指標に対し、買収した後のポイントについては(1)対象会社と自社の違いや共通点を明示化する、(2)(買収直後は士気が落ちる傾向にあるため)これまで企業規模や事業領域では難しかった「野望」を描く、(3)早めに買収後の強みによる成功事例を創出する――の3点を挙げた。
Accentureがデザインやデジタルマーケティング領域の事業を持つFjordを買収した際には、クリエイターたちが多数いる企業であったため、戦略コンサルティング企業であるAccentureのロジック重視の社風と違う点、「パッションや直感を重んじる」ことができるよう、“違い”を明確にし、双方が尊敬し合えるようにしたという。
同様に強調したのが撤退条件を「明確にすること」である。Googleのオンライン写真編集サービス「Picnik」やFacebookのモバイルアプリ開発プロジェクト「Creative Labs」は1~2年で撤退を決めている。「素早く行動し、破壊せよ」というFacebookのモットーを紹介した。
また、デジタル領域企業のM&Aでは「志を一つにする(ともに野望を描く)」「先人に学ぶ(違いを理解し尊敬する)」「厳しく温かく(入口はソフト、撤退はハード)」といった日本企業の経営手法の強みが生かせると強調、M&Aが企業のデジタル化に有効である点を訴えていた。