IBMは2月、ネバダ州ラスベガスで開催した「InterConnect 2016」でブロックチェーンに関する複数の取り組みを発表した。主な内容は、日本取引所(JPX)とブロックチェーンの実証実験の実施、世界4都市にブロックチェーンを利用したアプリケーションの設計と開発を支援する拠点を開設するといった取り組みだ。
開発者支援として、ブロックチェーン技術の発展を目指す取り組みであるLinux Foundationのオープンソースプロジェクト「Hyperledger」に4万4000行のコードを寄贈すること、同社のPaaS「Bluemix」上で、新たにブロックチェーンのサンドボックスを提供することなども発表している。
ブロックチェーンは、分散型のネットワークにデータを複数格納することで、データの改竄や盗取リスクを低減させる技術である。当初は、仮想通貨であるBitcoinを安全に流通させるための技術として注目されていたが、今では、FinTech分野での活用に寄せられる期待の方が大きい。
早期よりIBMは、ブロックチェーンをビジネスツールとして活用する取り組みを進めていた。その牽引役となっているのが、ブロックチェーン担当バイスプレジデントで、同社のフェローでもあるJerry Cuomo氏だ。WebSphereの創立者としても知られるCuomo氏は、ブロックチェーンのメリットとして「取引決済時間の短縮」「間接費用の大幅削減」「リスクの低減」を挙げ、その将来性を強調する。
今後、IBMはブロックチェーンとどう向き合うのか。Cuomo氏は日本メディアとのグループインタビューに応じ、その取り組み内容を説明した。

IBMブロックチェーン担当バイスプレジデントでIBMフェローのJerry Cuomo氏
匿名性を排除
――ブロックチェーンの活用が期待される業界は。
メインとなるのは金融だが、それ以外でも運輸、流通、自動車、小売り、政府機関などが考えられる。実際にフィンランドの港湾施設では、積荷情報をブロックチェーンでやり取りし、安全かつ最適な状態で輸送する取り組みが始まっている。
――IBMのビジネス向けのブロックチェーンは、ほかのブロックチェーンと何が異なるのか。
大きく異なるのは、「Permissioned Blockchain」という概念を取り入れたことだ。これは、参加者の匿名性を排するもので、特定のブロックチェーン(ネットワーク)に参加する際には、既存の利用者からの許可(パーミッション)をもらい、身元を明らかにしたうえで参加できるという考え方だ。
これにより、監査やコンプライアンスが必要な業界でも、プライバシーを守りつつ、適切なデータのやり取りが可能になる。われわれはこの概念を「追加機能」として実装するのではなく、「中枢の機能」として設計している。
――ブロックチェーン普及の課題は何か。
ブロックチェーンは、多様性のあるビジネスネットワークにおいて、その効力を発揮する。例えば、グローバル企業でコンプライアンスのためにブロックチェーンを使っている場合、参加者が多国籍に渡っていようとも、その管理は簡単だ。
しかし、同じく、多様性のあるビジネスネットワークであっても、規制されている領域では利用に時間がかかる。「ブロックチェーンをどのように使用するのか」を明確にし、(規制当局の)同意を得る必要があるからだ。これには相当な時間を要するだろう。
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――今後想定されるブロックチェーンの活用用途を教えてほしい。
まだ想定段階だが、自動車保険会社が事故を立証する場合などに活用できると考えている。最近では、自動運転機能や自動運転アシスト機能を搭載した車も普及している。もし、自動運転中に事故を起こしたらその責任は誰が持つのか。今後、こうした問題は必ず生じる。
そうした場合、事故を起こした瞬間に運転していたのは人間か自動運転機能なのかをブロックチェーンによって詳らかにできれば、保険会社が事故原因を立証しやすくなるだろう。さらに、例えばWeather Companyからの気象情報や行政機関からの道路整備情報などもブロックチェーンで共有できれば、事故原因を正しく把握し、適切な保険料を支払うことができる。
――ブロックチェーンをビジネスで普及するためには、どのような点に留意すべきか
ブロックチェーンは「技術」ではなく「ビジネスツール」として戦略的に導入することが重要だ。現在は技術面が注目されているが、「新たな技術をIT部門が利用する」と捉えてしまうと、ブロックチェーンが提供する価値を生かせないリスクが高くなるだろう。