ベトナム国内での受注側でも激しい淘汰が進んでいるのか
一方で、ベトナム側参加者の大手企業からは「ベトナムへの発注は年換算で3割から5割程度増えている」と発言する方もいました。また、同じくベトナム側参加者の中には、数年前に起業したにもかかわらず、既に150人以上の社員をかかえるまでに急成長したという企業の方もいました。
こうした好調な企業と前述のマクロのデータは合致しません。つまりこれは、日本からの発注先が、限られた会社に絞られつつあるということではないでしょうか。
また、ベトナム側参加者の大手企業の中には、幹部が出席しているケースも散見されました。それぞれの会社規模からすると、トップセールスとして今回のイベントのために日本に来ることが私には意外に感じられます。
ただこれも、マーケットとしてベトナム市場を見たときに、ベトナム国内での売り上げが期待するほど伸びていない現状から、ベトナム企業が活路を求めて日本企業との接点を求める策を講じているということためかもしれません。
そうなると、2015年1月にハノイで行われた「日越ICTフォーラム」 で積極的に提唱されていた、「インフラ整備の観点から一歩進んだ社会システムとしてのICT投資」についても、ベトナムにおいて計画やアイデアはあるものの、実際の投資に結びつかないという懸念も今後出てくるかもしれません。
TPPは日本の情報産業にとって「黒船の襲来」となる?
そして、ベトナム国内では現在、オフショア開発の受注に成功している企業を中心に、日本進出も実際に起きています。昨年と異なり、今回の開催者にJETROが含まれている理由はこの点にあるようです。JETRO対日投資部高島次長はウェルカムスピーチで、「ベトナムから日本へ進出するケースも出てきており、これをJETROが支援している」と発言しました。
進出理由としては、ベトナム側参加者から「わが社にとって、日本市場以外の顧客は考えられない。また、日本市場での受注を目指す以上、日本法人は必要不可欠。日本国内での定常的な顧客との直接的なやり取りや、海外送金を伴わない日本国内での日本円決済といった仕組みが日本の顧客から求められている。そのためにも日本法人の設立は重要」との発言がありました。発注側の日本企業が相手企業に求めるものは、これが本音とも言えるのでしょう。
もちろん、ベトナム企業からみれば、日本での各種コストは相当大きなものとなります。そのため、JETROハノイの情報では、物価の高さのために日本から撤退したベトナム企業もあるようです。成功している事例を見ると、特にオフショア開発も海外取引も行っていないわが国の中小企業にとっては新たな脅威になるようです。一例としてベトナム最大手のFPT社の日本法人を例に挙げてみます。
FPT社はFPTジャパン株式会社を2005年に立ち上げました。資本金9000万円、従業員数約600人という規模で、東京の本社をはじめ、大阪と名古屋に営業所を有し、契約形態は請負、派遣、準委任、ラボ(人材確保)となっています。なお、人員構成としては、SEやブリッジSEは500名弱となっており、日本人は600人のうち7%ということなので、技術者の大多数はベトナム人と推測することもできます。この数字は、読者の想像を超えた規模ではないでしょうか。
また、会社としての最も重要な課題の1つとして、ベトナム人エンジニアにいわゆる「業務知識」を身に付けさせることを掲げており、教師役となる日本人エンジニアを積極的に受け入れているとのことです。ベトナム人エンジニアが順調に成長していけば、日本人エンジニアにとっても手ごわいライバルとなるでしょう。
こうした動きは、これまでSES(Software Engineering Service)といった名目で開発の現場にエンジニアを送り込むことを収益の柱としていた中小企業にとって、まさに「黒船の襲来」となるかもしれません。経済産業省でも海外IT人材の活用は検討テーマの1つとなっているようですし、入国管理を取り巻く法制度上でも、すでに以前より「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令の技術及び特定活動の在留資格に係る基準の特例を定める件」(平成13年法務省令告示第579号)として特例が示されています。
日本市場に注目しているベトナム企業の中には、このような状況をよく理解しています。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やFPT社の「ブリッジSE養成1万人計画」を契機の1つとして、積極攻勢をかけてくる可能性すら考えられます。