4つの領域の特徴と強化策
業務価値軸とスキル依存度軸により4つの象限ができます。まず、業務価値が高く、かつ、スキル依存度も高い領域(第一象限)は、IT部門がビジネスに貢献するうえで重要であり、かつ、特定のスキルを必要とする業務を指します。自社の事業に関する業務知識を活用した問題解決などがこれに当たります。
戦略的な業務であるためアウトソースすることは困難で、自社内で強化していくことが求められます。業務価値は高いが、スキル依存度は低い領域(第二象限)は、IT部門がビジネスに貢献する上で重要ではあるものの、特定のスキルには依存しない業務です。戦略的な業務のため完全にアウトソースすることは困難ですが、特定のスキルを必要としないため、補完的に外部の能力を活用することができます。
技術動向の調査や一般的な技術的問題の解決がこれにあたります。また、業務価値もスキル依存度も低い領域(第三象限)は、特定のスキルを必要とせず、ビジネスには直接貢献しないため、定型業務化するかアウトソーシングの活用が考えられます。
運用における定型オペレーションやコモディティ技術(パソコンなど)の管理などがこれに当たります。技術的な実務を習得する「OJTの場」としてキャリアパスの過程にこの領域の業務を組み込むことも可能です。最後に、業務価値は低いがスキル依存度が高い領域(第四象限)は、ビジネスに直接貢献しない業務を遂行するために特定のスキルを必要としていることから、業務のやり方や採用している技術を見直すことが必要となります。
標準化されていない自社独自システムの運用や自社開発の業務アプリケーションの保守などがこれに当たります。ただし、この領域の業務が適切に実行されない場合、日常業務の遂行に影響を及ぼす可能性があるため、リスク管理を強化する必要があります。
IT部門長は、現状の業務を業務価値とスキル依存度という2つの視点で整理してみることが推奨されます。また、それらの業務をどのような人材が何人で担っているかをプロットしてみるとよいでしょう。
このようなポートフォリオを用いることで、自社で強化しなければならないスキル、外部から補完することができるスキルが明確になります。また、その過程で、いくつかの領域で業務そのものを見直さなければならない局面にも遭遇することでしょう。組織が組織として機能するということは、すべて同じスキルの同じ役回りの人材を創り出すことでは決してありません。
組織の人材計画を策定、評価、改善するためには、それぞれの業務の特徴と照らし合わせた配置および育成計画を策定しなくてはなりません。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。