――担当者が翻訳の実行をマニュアルでやらなくても大元の日本語ページを書き換えると翻訳が実行されると。
上森氏 実際に情報処理におけるサイトの国際化、つまり「Internationalization(i18n)」はお金と時間といったコストが大きいと聞きます。とあるECサイトが翻訳のための見積もりを取ったら5000万円から1億円、期間は半年なんていうのはザラですから。また、翻訳という作業がクリエイティブではないと感じるエンジニアも多くいるようです。それを1行のスクリプトを埋め込むだけで自動的に翻訳してくれるというのはエンジニアにはものすごく評価されるのです。
林氏 WOVNを説明する際に「i18nのSaaS」と言うとエンジニアには一発で理解してもらえます。
――機械翻訳なので結果に対して100%の満足度はもらえないのでは。その部分にはどう対応しているのですか。
林氏 例えばファッションのECサイトなどになると業界独特の用語や言い回しがあります。それを機械翻訳だけで翻訳しても満足してもらえないのはわかっています。なのでWOVNの目指す方向としては翻訳そのものの品質を上げるよりも出てきた結果を修正しやすくするという方向を目指しています。例えばダッシュボードである単語の翻訳の結果を直すとそれを機械学習して次からはもう直す必要がないという状態を実現しようということです。
――現在は約7000のサイトで事例があるということですが、これから目指すゴールはどのくらいですか。
林氏 今、世界中にあるウェブサイトは10億ぐらいだと言われています。そのうちWordPressで構築されているサイトが20%と仮定すると2億個のウェブサイトがあるわけです。それを全部WOVNを使ってグローバル化するというのがだいぶ先の目標ということになると思います。
――なかなか野心的な目標ですね。
上森氏 しかし直近には2020年の東京五輪があるので、それに向けてもっと数を取りに行く戦略を取りたいと思ってます。例えばウェブ製作会社にとってデフォルトで使ってもらえるような検証のためにツールを作ったり管理しやすくするためのツールを作ったりすることを計画しています。
林氏 実際にはECサイトだけではなくて世の中にはもっとさまざまなサイトがあるわけです。i18nをしたいという意味ではオンラインで行う学習のためのサイトがありますが、それもターゲットにしたい。
――例えば米国の非営利教育ウェブサイト「Khan Academy」のような。
林氏 そうです。ああいうサイトだとどうしても英語がわからないと使うことができない。でもそれが自分が普段使っている言語で読めれば、学習するハードルが下がると思うんです。英語ができなくても自分の言語で学習ができたら良いなと。そういう部分にもWOVNが役に立てたらとは思います。
――A/Bテストの研究から始まったWOVNですが、今後の技術的な方向性は。
林氏 もともとOptimizelyを研究して思いついたWOVNですが、将来的には今のOptimizelyのようにパーソナライゼーション、そしてアナリティクスの方向に行くことになるとは思います。ただコンバージョンを上げるとか売り上げに貢献するといったマーケティングツールとしての支援よりも、多言語化によって認知を拡げるというマーケティングの初期の段階で役に立つツールなのかなとは思っていますので、棲み分けはできるとは思います。
上森氏 社員の中にはユニークな経歴を持った人間がいますので、これからどういう方向に行くのかはさまざまな可能性があります。音楽制作ツールによる作曲に加え、デザインやゲームを作る人間もおり、ECサイトだけでなくゲームのゲームのi18nなどにも可能性があるのではと思います。
林氏 エンジニアに自由な発想と顧客のニーズをマッチングさせるのがCEOの今の役目だと思っています。今後も期待してください。