バイリンガル人材に特化した人材紹介を行っているロバート・ウォルターズ・ジャパン。同社は年1回、世界の給与水準を「業界×職種×地域」ごとに調査したレポート「給与調査」(グローバル版、日本版)発表している。最新のレポート「給与調査 2016 日本」から読み取れる日本市場でのITエンジニアの年収傾向について、同社 IT部門ディレクターであるトモカズ・ベッゾルド氏に話を聞いた。
--まず自己紹介をお願いします。
ロバート・ウォルターズ・ジャパン IT部門ディレクター トモカズ・ベッゾルド氏
ロバート・ウォルターズは1985年に英国のロンドンで設立された人材紹介会社です。日本法人は2000年に設立され、以降、主に日英バイリンガル人材に対して正社員や派遣・契約ポジションの紹介を行っています。職種/業種ごとの担当チームに分かれて企業や求職者の採用・転職活動をサポートしており、私はIT人材を担当するチームのディレクターを務めています。
--グローバルでIT人材の不足が言われていますが、2016年、特に需要が高い職種は何でしょうか。
2016年も、多くの分野でIT人材の引き合いが強い状況が続く見通しです。日本では特に、サイバーセキュリティ、クラウドコンピューティング、IoT、ビッグデータの専門家に加え、分野を問わずスキルの高いIT営業職の需要が高まると見ています。
ITプロフェッショナルでかつバイリンガル人材となると、どの分野でも需要が高いのですが、その中でも特に引き合いが多いのは、具体的な職種としてはデータサイエンティスト、Hadoopエンジニア、UI/UXデザイナー、スマートフォンエンジニア、セキュリティ技術やクラウドアプリケーションの経験を持つプリセールスデリバリーエンジニアなどです。これらの職種は今非常に需要が高くなっており、転職時には10%の給与増が見込まれます。
--ITエンジニアの年収アップにつながるスキルの身に着け方を教えてください。
まず、言わずと知れたことですが、自身の専門分野でのスキルを高めていくことです。ネットワークエンジニアであれば、Cisco Certified Network Associate(CCNA)からCisco Certified Network Professional (CCNP)、Cisco Certified Internetwork Expert(CCIE)とスキルアップすることが、そのまま給与アップにつながります。
それから、英語力の向上はITエンジニアの給与アップに多いに役立つと考えます。同じ仕事でも、英語を話せる人の方がより高い給与をもらう傾向にあります。もちろんケースバイケースではあるものの、英語のコミュニケーション能力の有無による給与の違いは、昇進するにつれて大きくなる傾向にあります。
--ITエンジニアが異業種や異職種へ転職をして年収アップを狙う例はありますか。
金融サービス業は昔から他の業界よりもIT人材に高い給与を払っているので、他業界から金融サービス関連業界に転職した場合は、通常は年収アップにつながります。
また、業界はそのままでも、ITエンジニアが「職種」を変えて年収アップを狙うこともあります。例えばQA(品質保証)エンジニアからデベロッパー、そしてビジネスアナリスト、プロジェクトマネージャーとキャリアアップをして、さらにはプログラムマネージャー、そしてCIO(最高情報責任者)になるというケースです。
その他の方法としては、現在日系企業で働いているのならば、外資系企業に転職することで年収アップを狙うことができるでしょう。外資系と日系では多くの場合給与の違いがあります。外資系では日英バイリンガルの語学力が必要だから給与が高い、というのは分かりやすい理由のひとつですが、理由はこれだけではありません。
外資系は、社内の個々の職種(マーケティング、会計、ITなどなど)において、その仕事のために必要なスキルの有無を見て採用活動を行っています。ある特定の業界で、その職種に関連する経験を持つ、特定スキルの人材の採用に重点を置いています。つまり、外資企業は日本企業よりも「スペシャリスト」人材を採用しており、この種の即戦力となるスペシャリスト人材は市場水準より高い給与をもらうことができます。また、外資系企業は基本的に、従業員を年功序列ではなく成果で評価する能力主義であり、給与にその成果が反映されることも給与の違いとして現れます。
--ITエンジニアはコードを書き続けていても年収アップが狙えますか。
ITエンジニアの中には、一生コードを書いて生活していきたいという人もいるでしょう。しかし、そのような人でも、「同時に年収アップを目指すのであれば、やはり将来的にはマネージャーや管理職を目指す必要があるのでは」といった疑問を抱えていることと思います。
結論から言うと、一生コードを書いて年収アップを狙うことは可能です。IT業界は、そうしたキャリアプランを立てるには最適なフィールドだと考えています。
ITエンジニアの職種は、当然ながら高度な技術力を必要とする分野であり、コードを書くことに情熱を持つ人たちを惹きつけます。中には、お金をもらわなくてもコードを書くほど情熱を持つような人もいます。最近では、より多くの企業がITエンジニアたちのこうした性質に気付き始めているように感じます。そして、マネージャーや管理職のポジションに就かず、コードを書き続けるエンジニアであり続けても管理職と同等の肩書きや給与をもらえるキャリア選択肢を用意する企業が増えてきています。