多くの企業が課題に上げる「ワークスタイル変革」。だが、言うは易し行うが難し。どう進めればよいのか。そんな疑問に答えてくれる話を先ごろ聞くことができたので記しておきたい。
「ワークスタイル変革はIT活用の話だけではない」
講演に立つ日本マイクロソフトの平野拓也社長
日本マイクロソフトの平野拓也社長が先ごろ、都内で開かれた中堅中小企業向けセミナーで、「日本マイクロソフトのワークスタイル変革の取り組みと“攻め”と“守り”のIT活用」をテーマに基調講演を行った。体験談に基づくワークスタイル変革の取り組みについて語ったもので、非常に示唆に富む内容だった。ここではその中から筆者も全く同感する2つの発言を取り上げて、その意図について解説しておきたい。まず1つは次の発言である。
「ワークスタイル変革はIT活用の話だけではない」
こう語った平野氏は、企業がワークスタイル変革を進めるうえでの重要なポイントとして、経営者が明確に示すべき「経営ビジョン」、全社を挙げて取り組むために不可欠な「従業員の意識」、働きやすい「オフィス環境」、労務管理などの観点からも変革に合わせていくための「制度・ポリシー」、そして「IT活用」といった5つを挙げた。
そのうえで同氏は、「ITはワークスタイル変革を支える道具立てとしてフル活用すべきだが、変革のキーになるのは、あくまでも人そのものに関わるところだ。とりわけ変革の推進役を担うのは、ほかでもない経営者。経営者が明確なビジョンを示して自ら動き出さないと、ワークスタイル変革は成し遂げられない」と強調した。
同氏によると、日本マイクロソフトもこれまで10年以上にわたって、ワークスタイル変革に取り組んできたが、当初はうまく進めることができなかったという。転機になったのは、2011年3月に起きた東日本大震災だ。震災を機にテレワークの活用に積極的に取り組んできた。今ではそれが目立っているが、前述した5つのポイントを基に取り組んできたからこそ、ワークスタイル変革が着実に進んでいるというのが、同氏が本当に伝えたいメッセージだと感じた。
「セキュリティ対策は経営課題としてとらえよ」
「セキュリティ対策は経営課題としてとらえよ」――これが平野氏の講演からピックアップしたもう1つの発言である。
同氏は、ワークスタイル変革を支えるIT活用には、「攻め」と「守り」の両面での取り組みが必要だと説いた。攻めは、例えば「時間の壁を超えた情報共有」や「場所の制約を超えた会議」といったことを指す。
一方、守りは、サイバー攻撃や情報漏えいなどに向けたセキュリティ対策を指す。同氏によると、今や5社に1社がサイバー攻撃の被害を経験し、中小企業の70%が個人情報の取り扱いを懸念しており、58%の企業が意図せず機密情報を誤った相手に送付したことがあるとの調査結果が得られているという。
また、「セキュリティ対策として、マルウェアがシステムの内部に侵入しないように防御することも非常に大事だが、万一、内部に侵入しても対処できるようにしておくことも同様に大事だ」とも説いた。
セキュリティ対策を経営課題としてとらえることは、以前から指摘されているが、実際には多くの企業においてその認識がまだまだ浸透していないというのが実感だ。ワークスタイル変革を着実に進めるためにも、セキュリティ対策は今後ますます重要度を増すだろう。これからの平野氏の語録にも常々出てくることになりそうだ。