3月15日は「世界消費者権利デー」だった。日本ではあまり馴染みはないが、これは世界中の消費者の権利を促進するために設けられた世界的な記念日だ。
中国では近年、多くの人がこの日を知るようになった。なぜなら毎年この日になると何かしらの企業や製品、サービス、商習慣などが、消費者の権利を揺るがすとして抗議の対象になるからだ。例えばIT系メディアであれば、良くないIT製品やサービスを紹介する。この程度なら大した影響はないが、国営テレビ局「中国中央電視台(CCTV)」の大型特別番組「315晩会」で取り上げられると、是が非でも企業は改善を迫られる状況となる。
中国にジャーナリズムはないと言う意見があるが、中国の粗悪品製造現場の激写や、故意に詐欺で騙されたふりをして犯人グループに接近するなど、末端の層による不良製品や詐欺グル-プの問題提起について、日々CCTVなどが放映している。放映されると新聞やネットニュースがそれに追随し、情報が拡散する。その結果、製品が改善される場合もあるし、詐欺グループが逃亡する場合もある。中国では普段からそうした影響力のある不正追及番組が流れていて、中国人はそうしたコンテンツに慣れているはずだが、それでも315晩会の影響力は大きい。そのため、この日が近づくにつれ、番組で今年は一体どの会社が対象になるのか、と数日前からニュース記事が掲載される。一方、企業担当者、特に標的になりやすい外資企業の駐在員らは日本人も含め「次は自分の会社がターゲットにされないか」と神経をすり減らす。
過去を振り返ると、2010年は、ソニー、東芝、LGなどの液晶テレビの保証期間が短いことが問題提起されたほか、HPのノートパソコンの一部機種で、よくフリーズしたり熱くなり過ぎる問題が扱われた。似たような案件では、2013年に、人気上昇中のAppleのiPhoneの修理対応が、中国の「三包規定」(一定期間内に品質問題が発生した製品について、修理、交換、返品などに関する企業の義務を定めた規定)に即していないと追及された。また2014年、2015年には車の修理対応で車メーカーが問題視された。
IT関係ではないが、2012年には三里屯という、北京でもオシャレなエリアのマクドナルドの店舗で、廃棄処分すべき食べ物が売られていたことが問題に。素直に謝罪すればよかったものを、当時有力なSNSの「微博(Weibo)」のマクドナルドのオフィシャルアカウントは「問題は三里屯店だけ」と発表し、さらなる大炎上を引き起こした。
問題を指摘されたら、オフィシャルサイトや各種SNSのオフィシャルアカウントで謝罪文を発表し、問題提起された通りに改善するしか沈静化の道はない。2014年にはニコンのデジタル一眼レフカメラ「D600」に問題があることが指摘された。同製品は中国において、写真に黒い斑点が写りこむ問題がしばしば発生し、ニコンは当初、それを大気汚染によるフィルターへの埃の付着が原因と発表していた。だが、この対応が問題だという議論に発展。番組放送後の翌日には、上海工商行政管理局が製品の販売停止措置を発表するに至った。ニコンはセオリー通りにニュースリリースで問題について謝罪し、D600ユーザー向けのホットラインを開設し、無償交換に応じることを発表した。しかし、それでも無償交換が発表された3月27日まで、世界消費者権利デーから12日も経過しているということで、ネット上の評判は良くなかった。
ターゲットは外資系だけではない。2015年には、キャリアの中国移動(China Mobile)や中国聯通(China Unicom)、中国鉄通(China Railcom)が、ルールを無視し、電話の詐欺グループの活動を実質的に助けていたと、キャリアの問題点をあぶり出し、批判している。例外なく、これらのキャリアも反省と改善を誓うコメントを発表している。
2016年は外資系企業は対象にならなかった。問題視されたのは、O2O(Online to Offline)の中古車売買のサイトでの価格表示の不正と、弁当デリバリーでの写真と現実が異なること、オンラインショッピングサイト「淘宝網(Taobao)」で売られる子供用品の3分の1が品質面で不合格だということ、プリペイドチャージされた通話料金をだまし取るスマホアプリ、セキュリティの甘さが露呈したQRコードだった。つまりスマホ向けのネットサービスが中心であり、これを1つのお祭りとしてみる消費者から見れば、ターゲットとしては小物感があった。
来年以降もこの時期は、世相を反映した企業やサービスへの指導が入ることになる。
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。