「教育バウチャー」をアレンジした仮想通貨で保育の偏在を解消

優秀賞を受賞したData&Peaceのメンバーと統計数理研究所の丸山宏氏(右)
優秀賞は早稲田大学と東京大学の3人で編成された「Data & Peace」。“保育問題 = 保育サービスの偏在”と定義し、厚生労働省のデータなどを用いながら、(1)全国的に保育所の定員は余裕があること、(2)認可保育園/認証保育園/認可外保育所といった保育所の形態によって補助金支給額に差があること—の2つの偏在を指摘した。このような偏在化が進む理由として、補助金が前年度の実績をもとに定められ、潜在的待機児童などの需要に供給が追いつかないと説明する。
これらの問題を解決する具体策として提示したのが、Milton Friedman氏の教育バウチャーを日本風にアレンジした仮想通貨「Mommy」。保育補助金を原資としてMommyを発行し、世帯年収や児童年齢に応じて全育児家庭に配布。保育事業者は育児家庭からMommyを受け取り、自治体に申請することで補助金に換金する。また、保育を必要とする・しない母親同士や自治体間でMommyを売買するアイディアも披露。交換比率は自由経済に応じて変動する仕組みを採用し、需要と供給のバランスをとる。

Data&Peaceが提唱する仮想通貨Mommy。保育園不足や認可外保育所が抱える問題が解消可能と説明した
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所 モデリング研究系 教授 総合研究大学院大学統計科学専攻 教授 丸山宏氏は、「偏在という仮説をデータで検証し、市場の効率性を導入するために海外データを調査し、さらに設計した仮想通貨システムを文京区の実データで検証するという、データ分析の王道を行った点を評価した」と述べた。受賞したData & Peaceのメンバーは、「今回のアイディアは、コンテストの応募締め切り当日に思いついた。当初はバウチャーという単語も知らなかったが、勉強していくうちに日本で導入されていないことに疑問を感じ、運用モデルの作成や行政のテストケースに当てはめた」とプレゼンテーションに至るまでの苦労を語った。
感情分析やジョハリの窓を駆使し「父親が嫌いな理由」を分析
最優秀賞は、富山国際大学付属高等学校の7人による「Youth×Smile」のプレゼンテーション「難しい年頃の娘をもつお父さんのための子育てサバイバル術」に贈られた。
自分たちが中高校生という年頃にさしかかると、娘と父親の関係が悪化する変化を経験したことを動機に調査を開始。「Amazon.com」で書誌情報をスクレイピングすると、67%が6歳までの育児を対象にしていることが分かり、以降の時期は書籍が激減するデータを示し、7歳以降の育児については情報が不足していると説明した。
子育て期間の分析方法として、自分たちが写った150枚の写真を使って、そのときの感情をMicrosoft Oxford ProjectのEmotion Recognitionで分析。育児期は家族イベントが中心で分析結果もHappinessが多いが、児童期に入ると学校イベントが中心になり枚数も激減。このことから、小学校入学を境に、(主に撮影者である)父親の子育てに対する感心が低下すると推察した。

Microsoft Oxford ProjectのEmotion Recognitionで自分たちの写真を分析
さらに、父親の役割や嫌いなところをKJ法で分析したアンケート項目を作成し、同級生50人とその父親に対して実施した。その結果、子育てへの自信を喪失している父親は60%に上った。生徒側の調査では、父親が嫌いと応えた生徒は59%。父親に尊敬の念を感じない生徒が63%だった。父親が嫌い・尊敬できない理由は「孤食する父親」(30%)にあるとし、食卓を共にしないことがコミュニケーション不足につながっていると指摘した。なお、お酒を飲む父親は嫌われると思われがちだが、分析の結果、父親の飲酒は尊敬度と相関関係がないことも明らかになった。
では、父親が積極的にコミュニケーションをとろうとすればよいのかといえば、そうではない。実は、自分から積極的にコミュニケーションを取る父親は80%におよぶが、生徒側は話し相手に母親が選ぶ割合が8割強。父親を選ぶ割合は2割以下とすれ違いが起きている。さらに父親の積極性を拒否する割合は28%、父親が意見を押しつけると感じる割合は15%であり、約半数が父親からの積極的なコミュニケーションを否定的に捉えている。これらのことから、同チームは「父親の自己開示に問題がある」と仮設を立て、ジョハリの窓(自己開示と隠蔽を視覚化するコミュニケーション心理学モデルの1つ)を試したところ、父親は子ども以上に自分自身が分かっておらず、自分と娘の性格に対する理解の不一致がコミュニケーションの阻害要因になっていた。
これらの問題を解決するために、父親に継続的に育児や家事に関わってもらい、娘との関係性の向上や維持につなげる「父親のグロースハック」を提唱。具体的な手立てとして、「父親に誕生日を祝ってもらうのは嬉しい」という着想から、娘の誕生日や記念日までのカウントダウンを行うスマホアプリ「愛娘」を企画した。アプリには想い出の写真を登録できるようになっており、父親のモチベーションアップにつなげるという。
慶應義塾大学 環境情報学部長 教授の村井純氏は、データ分析能力はもちろん、顔認証技術を使ったデータの裏付けなど新しいツールを使っている点に感心し、ジョハリの窓を用いたストーリーラインの構成を高く評価。受賞したYouth×Smileのメンバーは、「コンテストは興味本位で参加を決めたものの、女子高校生独自の目線から父親と娘の関係を考え、研究を続けてきた。ITが得意という訳ではなく、賞をもらってビックリしている」と緊張しながらも明るく応えていた。

最優秀賞を受賞したYouth×Smileのメンバーと慶應義塾大学の村井純氏(中央)
村井氏は総評として、「今回は4回目の開催だが、回を重ねるごとにプレゼンテーションの質が向上している。データを分析して問題解決や発見につなげる精度も向上した。さまざまなITツールを高校生が使いこなし始めたことで、社会全体に、データやITを活用する意識が芽生えたように感じる」と述べた。
砂金氏にも全体の意見を訪ねたところ、「特に高校生チームの皆さんは自分たちの世代に終始せず、与えられたデータに加えて周りの大人も活用する包括的な見方をしていた。真摯に取り組む姿勢は素晴らしい」と高く評価したが、「独創性のある提案も大事だが、数学や統計、データ解析といったエンジニア的な視点に興味を持つ学生が集まると、コンテストはさらに面白くなる」と今後の期待を述べた。