最適解を解くよりも、問題を設定する方が実は難しい
これだけ多くの難解な問題が「解ける」ようになってしまった今、「機械に人間の仕事が奪われてしまう」という議論が盛んになった。この議論は、「人工知能」というものを理解するうえで非常に重要なので、前回の繰り返しになるが、今回の話を踏まえ、繰り返し述べておきたい。
今回は、「問題が与えられ(たくさんの経路があり)、その中で、より良い答えを求める(最適な経路を見つける)問題」である、数理最適化問題の構造について述べた。

数理最適化問題は非常に難解な問題を多く含むが、過去の偉人たちの活躍により、ある程度の解き方は確立されている。つまり、卑近な言い方をすると、「解きたい問題があったとして、数学が得意な人にその問題を見せれば、ほとんどの場合、解き方を教えてくれる」という時代になったということである。すなわち、数学者は「万能」と言っているようにも感じる。
しかしながら、ここで強調したいのは、数学者は、問題があってはじめて、解き方を考えることができるということだ。
ここでの問題とは、
- 何を最適化(最大化or最小化)したいのか
- どのような条件(拘束条件)で最適化したいのか
の2つを指す。
もちろん、今の時代、データが膨大にあるので、他社のデータを見て、「御社のような会社は、このようなことに困っているのではないですか。このような条件なのではないですか」と言ってくれる会社はいくつもあるだろう。だが、本当にそうして設定された問題は、はたして自社の状態を正確に反映できているのだろうか。つまり、
- 自社が最大化したいものは、他社とまったく同じだろうか(人間にとっては「ほとんど同じ」に思えることも、機械にとっては「まったく異なるもの」になってしまう、そっくり同じ人間が存在しないのと同様に、そっくり同じ会社も存在しない)。
- 自社の置かれた状況(拘束条件)は、他社と同じだろうか。
という2点の確認が必要だ。
逆に言うと、この2つさえしっかり押さえておけば(数学者ではなく、自身で考えられるようにしておけば)、最適な状態にたどり着く解答は、数学が得意な人が見事に導き出してくれる。誰がやっても同様の答えを導き出せる。
問題を設定すること、すなわち、「何をどのような条件で最適化するか」を適切に決定することは、現場を知る人間にのみ与えられた「能力」であり、人工知能には持ち得ない能力である。もちろん、現場を知らない数学者にも、このことは不可能である。以上の点を、最後にもう一度強調しておきたい。
次回は、人工知能の進化の歴史に関して非常に重要な「機械学習」という技術が、今回説明した「数理最適化」にどのような影響を与えてきたかを説明することで、人工知能についての理解をさらに深めていきたい。
- 松田 雄馬(工学博士)
- 2007年3月、京都大学大学院情報学研究科修士課程修了後、2007年4月、日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。無線通信の研究を通して香港にて現地企業との共同研究に従事。その後、東北大学と共同で、脳型コンピュータの基礎研究プロジェクトを立ち上げる。 2015年6月、情報処理学会DICOMOにて同研究により優秀論文賞、最優秀プレゼンテーション賞を受賞。 2015年9月、東北大学にて博士号(工学)を取得。 2016年1月、日本電気株式会社(NEC)を退職し、独立。 現在、ラオスをはじめとする発展途上地域における情報技術の現状を調査するとともに、そうした地域ならではの新事業を創出する企業の設立を準備している。