一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は、ITユーザー企業の投資動向やIT戦略動向などの調査結果を発表している。IT投資は増加傾向にあり、特に「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」と、「迅速な業績把握、情報把握(リアルタイム経営)」への関心が高いという結果が分かった。
2016年度のIT予算の対前年比をみると、回答企業(調査対象は国内上場企業およびそれに準ずる企業)の4割強(43.6%、前年調査比1.6ポイント増)が、2015年度よりIT予算を「増やす」と回答した。
逆に「減らす」と回答した企業の割合は2割弱(18.0%、同0.2ポイント減)。IT予算を「増やす」割合から「減らす」割合を差し引いて求めたDI(ディフュージョン・インデックス)は25.6ポイントで、前年調査のDI(23.8ポイント)を上回った。
2016年度IT予算の増減(2015年度比の増減予想)(JUAS提供)
売上高1000億円未満の中堅・中小企業でのIT投資が活発に
売上高規模別にIT予算の増減を集計したところ、すべての売上高規模でDIがプラス(IT予算を増やす企業が減らす企業よりも多い状況)となった。特に売上高1000億~1兆円未満の層では、半数を超える55.1%の企業が2016年度にIT予算を「増やす」と回答し、DIは37.1ポイントで前回調査(11.6ポイント)から大幅に改善した。
売上高規模別2016年度IT予算の増減(2015年度比)(JUAS提供)
IT投資に特に積極的な業種は金融
業種グループ別にIT予算の増減を集計した結果、DIが最も高かったのが、銀行や証券、保険などの「金融」グループだった。2016年度IT予算のDIは47.1ポイントで、前年調査よりも26ポイントも上昇。
勘定系システムといった既存システムの強化に加え、金融とITを融合して新しいサービスを生み出すFinTech分野などでもIT投資が活発化するものとみられるという。そのほか、前年よりIT予算を増やす傾向が強いのは、機械器具製造(前年調査に比べDIが7.2ポイント増)、素材製造(同5.9ポイント増)、商社・流通(同4.4ポイント増)となった。
一方、前年調査でDIが高かった社会インフラ(同13.6ポイント減)やサービス(同9.9ポイント減)、建築・土木(同6.7ポイント減)については、IT予算は増加傾向にあるものの2016年度はひと呼吸おくような状態とみられる。
業種グループ別2016年度IT予算の増減(2015年度比) (JUAS提供)
売上高に占めるIT予算、全体平均は1.2%、中央値は0.6%。業種ごとに差
売上高に占めるIT予算の割合を集計した結果、回答企業の全体平均では、売上高に占めるIT予算の割合は1.21%となった。極端に投資が多い/少ない企業の影響を避けるため最大値および最小値の双方から回答の10%を排除して計算したトリム平均値は0.75%、中央値は0.6%だった。
業種グループ別にみると、金融では売上高に占めるIT予算の比率が極端に高く、平均値で7.82%、トリム平均値で7.40%、中央値でも6.43%となった。一方、トリム平均値が最も低かった建築・土木では、それぞれ0.49%、0.43%、0.38%だった。
業種グループ別にみた売上高に占める2015年度IT予算の割合(JUAS提供)
根強い業務効率化ニーズ、経営の「可視化」に対するニーズも高い
「IT投資で解決したい中期的な経営課題」を優先度の高い1位から3位まで回答してもらった結果をみると、傾向としては前年調査と大きな変化はなかった。
あらかじめ用意した15個の選択肢の中で、群を抜いて回答が多かったのが「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」と、「迅速な業績把握、情報把握(リアルタイム経営)」。いずれも回答企業の約2割が、IT投資で解決したい中期的な経営課題の1位として挙げている。解決したい課題として3位までに挙げた企業の割合は、「業務プロセスの効率化」が52.3%、「迅速な業績把握、情報把握」が37.5%となった。
IT投資で解決したい中期的な経営課題(1位~3位)・1位の降順(JUAS提供)
調査は2015年9月30日から10月19日に実施、東証一部上場企業とそれに準じる企業の4000社を対象として各社のIT部門長に調査票を郵送して回答を得た。調査の有効回答社数は1115社、IT予算に関する有効回答数は654社、IT投資で解決したい経営課題に関する有効回答は1060社。
なお、本調査のIT予算は当該年度に支出予定の金額(キャッシュベース)を基本としていおり、金銭的な支出を伴わない費用(償却費等)は除外している。