デジタル化とクラウドインフラによる全体最適化
デジタルトランスフォーメーションが進む中、ユーザー企業のデジタル化への対応は、長期的な競争優位が築く上で重要な位置付けとなっている。CIOや情報システム部門は既存のシステムを活用しつつ、新しいデジタルイノベーションを創造するパートナーの役割を担うようになる。それに伴い、クラウドをはじめとしたIT基盤の活用のあり方も大きく変化していくことになるだろう。
ユーザー企業において、クラウドの導入は、適材適所でクラウドサービスを採用する個別最適によるハイブリッドクラウド化が進んでいる。
現在のハイブリッドクラウドは、オンプレミスシステムの環境から、パブリッククラウドやプライベートクラウドを専用線やVPNなどでつなぐ「温泉型のハイブリッドクラウドのモデル」が中心だ。
温泉型のハイブリッドクラウドモデルでは、個別システムは最適化が進むものの、専用線やVPNなどのコストの増大、複数のクラウドの運用管理によるリソースの重複や責任範囲のあいまいさなどによるガバナンスの低下やセキュリティリスクの増大、運用の不効率性なども懸念される。
デジタルトランスフォーメーションの進展と、温泉型ハイブリッドクラウド化が進むことで、ユーザー企業においては、全体最適化を重視した「近代ホテル型のハイブリッドクラウド」のモデルへのニーズが高まっている。
近代型ハイブリッドクラウドモデルとは、同一の土地(データセンター)や整備されたフロアレイアウト(ネットワーク)上で、オンプレミスシステムの移行も可能な温泉旅館風のVIP対応の宿泊環境(ベアメタル)や、ビジネスパーソン向けが出張に応じて宿泊可能な宿泊(パブリッククラウド)が混在する環境だ。
これにより、宿泊環境やフロントの一元化が図られ、既存のITシステムの効率性を高めながら、ビジネスのイノベーションの創造を支援する適材適所の全体最適化を重視したクラウドインフラへの流れが加速化していくことになるだろう。
これまでとりあげてきたデジタルトランスフォーメーションの流れは、ユーザー企業自身が、ビジネスを創造するサービス事業者としてのシフトが求められている。その中で、CIOのリーダーシップとデジタル化への投資、そして、デジタルトランスフォーメーションを支援するIT基盤の選択が重要となっていくだろう。
- 林 雅之
- 国際大学GLOCOM客員研究員(NTTコミュニケーションズ勤務)。NTTコミュニケーションズで、事業計画、外資系企業や公共機関の営業、市場開 発などの業務を担当。政府のクラウドおよび情報通信政策関連案件の担当を経て、2011年6月よりクラウドサービスの開発企画、マーケティング、広報・宣伝に従事。一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) アドバイザー。著書多数。