デジタル化がつくるモノ、壊すモノ

アプリは小売業の売り上げにつながるのか--データを分析するApp Annieに聞く - (page 2)

松下康之

2016-05-19 07:30

--なるほど。今回は先日、App Annieが主催したセミナーでのパルコ、無印良品、東急ハンズのO2Oの話を受けて、スマートフォンとO2Oはこれからどうなっていくのかという辺りの話をお聞きできればと思います。

ビジネス開発担当向井俊介氏
ビジネス開発担当向井俊介氏

向井氏 私はゲームパブリッシャー以外のビジネス開発を担当していまして、パルコや東急ハンズ、無印良品といった企業とも色々と話をしています。小売り業界の業績のデータ、特に売り上げと、各社が開発したアプリのダウンロード数の相関を調べてみると、実はあまり(売り上げに)影響を及ぼしていないのではないかという結論にたどり着いたわけです。

 ただ経営層からすると、スマートフォンのアプリをもっと使えないかという気持ちあるわけです。ですので結果としてアプリを作れという状況になって作っただけで、運用をちゃんと続けられない、とりあえず作ってはみたが上手くいかなかったという結果に先進的なブランドや企業が持っている認識なのではないかなと思うのです。

 最初のステップとして、まずは売り上げを伸ばすのではなく、現状を把握するためのデータを取るという目的でアプリを作って使う方がいいという話をセミナーなどではしています。例えば、無印良品の良品計画さんはアプリをコミュニケーションツールとして位置付けられています。

 アプリの目的によってメディアなのか、コミュニケーションツールなのか、売り上げを上げるクーポンなのか、その辺がまだ各社模索しているという状況じゃないかなと。もう少し原点に戻って「スマートフォンのユーザーの時間をどうやって獲得するのか」というところで戦略を立ててみるということをお勧めしています。

滝澤氏 スマートフォンのアプリをCRMのように使おうとすると、どうしても「クーポンやセールのお知らせ」のように既存の顧客をつなぎとめる方向になってしまうんですね。それだと向井が言ったように、他に使われているユーザーの時間を奪うということにはならないのです。

 他のどんなアプリが使われているのか。何に一番時間を使っているのかを知った上で、会社としてどう新規のユーザーを獲得するか、より多くの時間を使ってもらえるようになるのか、接触を増やした上で売り上げにいくのか、サポートに行くのかを決めればいいと思います。

向井氏 ゲームパブリッシャーとは違って、小売業の皆さんがどういうデータを必要とするのかなどを提案している状況です。例えばアプリのダウンロード数に関しても、日別でその数字を提示できますので、他社の状況を知ったうえでプランニングできるわけです。

 O2OはこれまでのApp Annieのゲームパブリッシャーよりも拡がりが大きくて面白いですね。ただ、先入観がある場合が多く、リアルの競合他社とだけ比較していると、ユーザーの時間を取るという目的を見誤る場合が多い気がします。ただ、アプリのマーケットは拡大していますし、B2Cの場合はアプリを無視できないと思います。その中でApp Annieはあくまでも中立的な立場でプロダクトを提供していこうと思っています。

--アプリのランキングデータという部分だけではなく、自社の目的に合わせてさまざまなデータを使うことで、自社のモバイル戦略、スマートフォンアプリの戦略がうまく進んでいるのかどうかを比較できるということですよね。

滝澤氏 そうですね。その場合、グローバルでどうなっているのかを見られるんです。日本の中だけではなく、米国やアジアの中でどうなっているのかを理解するのが重要です。

向井氏 例えばインドにおいてはモバイルコマースが圧倒的なシェアを持っていてスマートフォンでモノを買うということが当たり前というのが見えてきているんですね。そういうことを知った上で戦略を立てて欲しいと思います。

<取材者から>モバイルを活用したマーケティングという命題に「モノを売る」だけではなく、「ユーザーの可処分時間をどうやって獲得するのか」という発想でO2Oを考えるべきという問い掛けは、これまでアプリを作りさえすれば良かったという安易な戦略に一石を投じるものだろう。

 App Annieをゲーム会社が使うサービスと決めつけず、客観的に自社の戦略や立ち位置を確認するためのツールとして認識することで、企業がモバイル戦略を立てる際の手助けになるかもしれない。

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