この結果となっている原因の一つとして、大規模な民間企業や政府・自治体ではITシステムに関与する人数や組織が多岐に渡り、各々の関心事が異なるため効果的な意思決定ができず、結果的に偏りのあるクラウド利用にとどまっているのではないか、という仮説が立てられる。
例えば、アプリケーション開発部門の立場からすると、現状で問題なく稼働している基幹系システムのクラウド化は工数が増えるだけだと考えており、周辺システムに対してSaaSを中心としたクラウドサービスへの置き換え利用にとどまってはいないだろうか。また、クラウド化が容易という理由で、B2Cに代表されるフロント系のウェブアプリケーションだけをクラウド利用するものの、バックエンドシステムとの連携を考慮すると、真のクラウドネイティブなシステムとは言えないのではなかろうか。
一方、運用部門の立場からすると、クラウド化によりプロバイダのサービスレベルを取り込んだ新しいサービスレベルの定義が必要になることで、開発、検証環境のクラウド利用にとどまってはいないだろうか。さらに、既存システムの維持運用や、定期的に発生する既存システム(ハードとソフト)のサポート切れに伴う大規模更改へ対応するだけで手一杯ではないだろうか。
そこで、連載2回目となる今回は、ITシステムのさまざまな立場を踏まえて、自社にとって最適なクラウド利用の可能性を検討するための論点・進め方について提言する。さらにわれわれがグローバルで支援しているハイパフォーマンス企業の取り組みや事例を紹介したい。
主要論点の設定
突然だが「デジタルビジネスの創出・拡大に向けて自社にとって最適なクラウド利用について検討してみよう」と言われた場合、何が頭に浮かぶだろうか。もちろん前述の通り各々の立場によって思いついた内容は異なるのだが、おおよそ以下のような内容が浮かんだのではないだろうか。
- 自社の事業特性を踏まえた新しいビジネスモデルは何か
- デジタルビジネスのKPI(効果測定指標)は何か
- 競合他社のデジタルビジネス化した事例は何か
- 自社のビジネスを考えるとどんなクラウドサービスを利用するのが良いだろうか
- 既にデジタルビジネスを手掛けている企業とパートナーシップを組めないか
- クラウド関連のIT予算管理の仕組みをどう整備すべきか
- 最新のテクノロジー動向を踏まえて何か新しいシステム化のアイデアはないか
- 現在所有しているIT資産の償却時期を踏まえるといつクラウド移行するか
どれも正しい答えではあるが、これまでにアクセンチュアが多数支援してきた事例から、まさにここが将来大きな落とし穴になる可能性がある。
上記のようなテーマを検討することは必要ではあるものの、デジタル化に向けたクラウド利用という観点からは「アイディアの具現化に向けたピース」が抜けており、後々になって実現に窮する「絵に描いた餅」となる可能性が高い。