パブリッククラウドサービス市場をリードする米Amazon Web Services(AWS)。だが、企業向けには個別ニーズに応じたサービスも提供している。でもそれは「ホステッドプライベートクラウドサービス」ではないと言う。その真意やいかに。
ホステッドプライベートクラウドサービスが注目される理由
今、企業向けクラウドサービス市場では、パブリッククラウドとプライベートクラウドの“いいとこ取り”をしたホステッドプライベートクラウドサービスが注目を集めている。このサービスは、通常だとユーザー側がIT資産を所有して管理、運用するプライベートクラウドとは違い、ベンダー側がIT資産を所有して管理・運用することから、「プライベートクラウド・アズ・ア・サービス」とも言われる。
IDCのレポートによると、ユーザーの期待として、プライベートクラウドに対しては「ITあるいは業務の効率化」、パブリッククラウドに対しては「効率化だけでなく事業拡大」が大きく、信頼性や安定性が重要な業務(IT)はプライベートクラウド、ビジネスイノベーションはパブリッククラウドといった風潮が見られるという。
ホステッドプライベートクラウドサービスは、その両方のユーザーニーズに対応し、さらなるビジネスイノベーションに向けては、有力なパブリッククラウドサービスと連携したハイブリッド利用を図ればいいという考え方だ。ミソとなるのは、このサービスがパブリックと同様、クラウドサービスの根幹を成すサブスクリプションモデルであるということだ。
有力なクラウドサービスベンダーは今、企業向け事業としてこぞってこのホステッドプライベートクラウドサービスに注力している。実は、パブリッククラウドサービス市場をリードするAWSも、企業向けには個別ニーズに応じたサービスを提供している。それも果たしてホステッドプライベートクラウドサービスなのか。
AWSの「バーチャルプライベートクラウド」は何が違うのか
機会があれば聞いてみたいと思っていたところ、日本法人であるアマゾンウェブサービスジャパンが4月26日にAWSの最新サービスに関する記者説明会を開いたので尋ねてみた。会見では、同社の岡嵜禎 技術本部長と瀧澤与一 技術本部エンタープライズソリューション部 部長が説明に立った。
聞けば、AWSは2006年3月にサービスを開始してからちょうど10周年とのこと。すでに発表されているが、売上高は2015年で78億ドルとなり、2016年には100億ドルに到達する見込みだ。岡嵜氏によると、2015年には722に上るサービスの拡充を行い、2016年もその勢いは続いているという。
会見では2016年に入ってから拡充されたサービスの中から20を超える内容の説明が行われた。その詳細は他稿に委ねるとして、筆者は会見の質疑応答で前述した疑問を投げかけてみた。すると瀧澤氏が次のように答えた。
「AWSは企業の個別ニーズ対応したサービスを“バーチャルプライベートクラウド(VPC)”と称して提供している。個別ニーズに応じたネットワーク環境やシステム構成を提供しているが、ITリソースを必要な時に必要な分だけ使用でき、使用した分だけを時間単位で料金設定している仕組みはパブリックククラウドと全く同じだ。一方、ホステッドプライベートクラウドサービスは、ITリソースを柔軟に使用できるのかどうか、料金設定も月額や年間契約で内容が不透明なものが少なくないと聞いている。したがってVPCはこれとは全く異なり、クラウドサービス本来のメリットを享受していただけるものだと確信している」
ちなみに、サブスクリプションという言葉の意味には「従量課金」も「期間貸し」も含まれる。したがって、サブスクリプションモデルといってもその内容は個々のサービスで異なる。ただ、AWSのVPCと同じ形態のホステッドプライベートクラウドサービスを提供しているところもある。いずれにしても、クラウドサービスのコストパフォーマンスに直結する話だけに、言葉遣いはどうあれ、ユーザーとしては中身をしっかりと見極める必要がありそうだ。
会見に臨むアマゾンウェブサービスジャパンの岡嵜禎 技術本部長(左)と瀧澤与一 技術本部エンタープライズソリューション部 部長