本連載ではこの発言を「アーティストになるべき」という意味ではなく「アートの感覚を身につけるべき」という意味に解釈した。もう1つ付け加えるならば「(アウトプットが)何らかの意味で極められているべき」ということだろうか。
アートの感覚とは、まず、作品であれ、製品であれ、サービスであれ、それを前にして自分の受けるエクスペリエンスを深く意識し、それを研ぎ澄まされたもの、極められたものにしようという努力を要する。
そして、同じように他人がそれを前にしたときに受けるエクスペリエンスを深く意識するということで磨かれるものであろう。この文脈で求められるアートの感覚のためには、教養がベースとして必要となる。
まとめ
本連載では、今後のビジネス戦略では必須となるUI/UXの向上を組織として推進するためには何が必要かを考察してきた。
UI/UXの向上の推進は決して一朝一夕でできるような簡単なことではないので、理想論に寄りすぎていると感じられる部分もあったと思う。
今回の最後に述べたような「アートの感覚」の部分にたどりつくのは難しいと思われるかもしれない。そうした難しさを認識しつつ、ここまでで述べたようなことをどう、自分の目の前の状況に落とし込んで行くかということを考えていっていただきたい。
そこから、良いエクスペリエンスが生まれれば、幸いである。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。 ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。 HCI が専門で、GUI、実世界指向インタフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。