さまざまな業種を横断して、ものづくり、物流、購買などのプロセスがデジタル化している。この影響について考える特集「デジタル化がつくるもの、こわすもの」。前回は、デジタル化対応に迫られる企業をサポートするコンサルティングファームの動きを伝えた。今回は、メディアの視点から、世界展開する雑誌のデジタル化に取り組むハースト婦人画報に話を聞いた。
さまざまな情報をスマートフォンなどのデバイスですぐに得られるようになった。ソーシャルとマルチメディアにより、情報の幅は広がり、伝わり方も大きく変わっている。既存の紙メディアは変革を迫られているが、『エル・ジャポン』そして創刊111年目を迎える『婦人画報』などを出版するハースト婦人画報社は6年連続で増収増益を遂げた。
秘訣は同社のデジタル戦略にある。代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)、Yves Bougon氏は「紙媒体も持つデジタルカンパニー」と自社を形容する。
『エル』『婦人画報』『メンズクラブ』などを出版するハースト婦人画報CEOのYves Bougon氏。Hearst Magazinesで東アジア担当マネージング・ディレクターも務める。
ハースト婦人画報の代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)、Yves Bougon氏
--6年連続増収増益。好調な業績の背景は?
リーマンショックの後に選択と集中として、事業の見直しを進めました。
ゆくゆくはデジタル中心になるという予想の下、どんな媒体なら生き残れるか、どんな分野が強いか、などと優先順位をつけました。海外事情をみると、コスメ、車などいくつかの分野は厳しい一方で、世界中で一番強いメディアは女性向けです。
だがファッションはまだ100%デジタルではない。この分野だったら紙媒体はなくならないだろう、と考えられる作業を経て結論を出しました。その結果、5誌を打ち切ることにしました。
(雑誌の世界では)リーマンショックで一番影響を受けたのは日本市場でした。1997年以降のピーク時と比べると、雑誌の販売と雑誌広告を合わせた雑誌ビジネス市場は全体の半分になっています。
その次は、残っている媒体で新しいビジネスモデルをどうするかでした。うまくいく保証はありません。一種の賭けですね。
--新しいビジネスモデルとしてデジタルを強化した。
デジタルと紙では収益構造が違います。デジタル広告だけでは限界がある。CPM(広告表示1000回あたりの料金)の問題もあります。となると、新しい収益源を作るしかない。
そこで考えたのが、ECです。エル発のECを作ろうと。われわれはこれまで紙のメディアとしてやってきたので、チーム作りからはじめて、準備期間を経た後に2009年にオープンしました。それが「エル・ショップ」です。
月間PVは2000万程度、ユニークユーザーは190万という「エル・オンライン」
エルはすでに「エル・オンライン」というオンラインサイトを持っていました。当時エル・オンラインのユニークユーザーは約100万。現在、月間のPVは2000万程度、ユニークユーザーは200万近くあり、順調に伸びています。ですが、これだけでは紙のビジネスに追いつけません。そこでエル・オンラインのオーディエンスからマネタイズを考えたときに、ファッションと相性のよいショッピングを考えました。
エル・ショップは日本のアイデアで、当初本社(当時はフランス、同社は2011年に米国のメディアコングロマリット、Hearst Group傘下に入る)から反発がありました。