デジタル未来からの手紙

人工知能関連政策に見る政府の“本気”とマイルストーン - (page 3)

林 雅之

2016-05-18 07:00

 職業別の従業者数は、AIやロボットなどにより、大きく変化していくことが予想され、AIやロボットの活用による大きな雇用シフトをともなう産業構造の変革が期待される。

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は4月21日、人工知能技術の進展予測とともに、時間軸上に可視化した「次世代人工知能技術社会実装ビジョン」を公表した。

 このビジョンでは、現在~2020年、2020年~2030年、2030年以降の3つの時間軸、「ものづくり」、「モビリティ」、「医療・健康、介護」、「流通・小売、物流」の4つの出口分野において、人工知能技術およびその関連技術の進展を、その効果とあわせて示しており、全体版でまとめた図が以下のとおりとなる。

出所:NEDO 「次世代人工知能技術社会実装ビジョン」 2016.4.21
出所:NEDO 「次世代人工知能技術社会実装ビジョン」 2016.4.21

 例えば、認知能力関係では、2016年から2020年にかけて、静止画像・動画像からの一般物体認識や、3次元情報からの環境認識、そして、人間の表情、感情の認識などが人間レベルに到達するとし、2030年以降では、特定ドメインに限らず、一般ドメインにおいて、文化や社会的背景などを考慮した認識が可能になると予測している。

 特許庁は、3月15日、平成28年度「人工知能技術を活用した特許行政事務の高度化・効率化実証的研究事業」の企画提案の公募を行っている。特許庁には、年間50万件を超える特許、実用新案、意匠、商標が出願されており、これらの膨大な案件を処理するため、中長期を見越して人工知能技術を活用した更なる業務の効率化の検討を進めていくという。

 この事業では、出願などの受付、方式審査、分類付与、実体審査のそれぞれの業務プロセスについて、現在の業務内容を各担当課へのヒアリングをし、当該業務内容について人工知能技術の適用の容易性、将来的に適用した場合の費用対効果などの適用可能性を検討、6月上旬から事業を開始していく予定という。

 理化学研究所は4月13日、AIの研究拠点「革新知能統合研究センター」の設置を発表した。文部科学省が進めるAIPプロジェクト(AI/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト)の研究開発の中核拠点として、先進的な人工知能の基盤技術などの研究開発を進める。

 各省庁のAIに関する取り組みを、研究開発と産業化の観点から横断的な取り組みも進めている。

 政府は、2016年4月12日に開催された第5回「未来投資に向けた官民対話」で、安倍総理が、人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップを、本年度中に策定するため、産学官の叡智を集め、縦割りを排した「人工知能技術戦略会議」を創設することを発表した。

 「人工知能技術戦略会議」では、今年度から、本会議が司令塔となり、総務省・文部科学省・経済産業省の人工知能技術の研究開発の3省連携を図り、「研究連携会議」と「産業連携会議」を設置し、国際競争力の強化に向けて、AI技術の研究開発と成果の社会実装を加速化していくとともに、2016年度末に人工知能の産業化のロードマップを策定し、産学官連携の推進役を務める。

出所:総務省 情報通信審議会 情報通信技術分科会(第117回)2016.4.26
出所:総務省 情報通信審議会 情報通信技術分科会(第117回)2016.4.26

 4月25日には、3省が推進するAI研究開発に関する「第1回 次世代の人工知能技術に関する合同シンポジウム」が開催され、各機関のトップが登壇し、議論を行っている。

 世界のAI関連の市場をみてみると、米Google傘下のDeepMindが開発したAI囲碁ソフト「AlphaGo」が世界トップクラスの棋士に大きく勝ち越し、世界的な話題となった。IBMやMicrosoft、Apple、Amazonなどの各社もAIに関連するサービスの展開を強化、日本ではトヨタ自動車は子会社で米国にAIの研究機関を設立するなど、AI関連の対応を急いでいる。

 今回の省庁の壁を超え産学官連携の推進役を務める「人工知能技術戦略会議」の取り組みや2016年度末に策定される産業化のロードマップ、そして、政府のAI関連の政策が、世界をリードし、世界と戦える日本の産業力強化と新たなイノベーション創造にどこまでつなげていけるのか、今後の展開が注目される。

林 雅之
国際大学GLOCOM客員研究員(NTTコミュニケーションズ勤務)。NTTコミュニケーションズで、事業計画、外資系企業や公共機関の営業、市場開 発などの業務を担当。政府のクラウドおよび情報通信政策関連案件の担当を経て、2011年6月よりクラウドサービスの開発企画、マーケティング、広報・宣伝に従事。一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) アドバイザー。著書多数。

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