三国大洋のスクラップブック

アップルのサービスビジネスにおける3つの具体的な問題点 - (page 4)

三国大洋

2016-05-14 07:00

ハードウェアビジネスに最適化された組織の弱み

 iPhoneをはじめとするデバイス(端末)の事業が「火薬」だとすれば、サービス関連のビジネスは「ペイント」……Thompsonの使うそんなたとえは少々意図が掴みづらい。

 それでも「一定の時間の中でできるだけ完成度の高い製品をつくることが重要なデバイスのビジネスと、絶対に完全なものなどつくりようながないため頻繁な更新を積み上げていくほうがいいサービスのビジネスとでは、自ずとやり方などが違ってくる」「一部の消費者にプレミアム価格で製品を販売し、大きなマージンをとれるハードウェアビジネスと異なり、ユーザーが最低限の対価しか支払おうとしないサービス・ビジネスでは、できるだけ多くの顧客獲得を狙わないといけない(一部の顧客だけを相手にしていては大した利益は得られない)」などといった箇所からは、Thompsonの言わんとしていることがそれとなく感じ取れる。

 Thompsonはまた、Appleのサービスビジネスに関する具体的な問題点として次の3つを挙げている。

1) 製品、サービスの統合性および完成度の高さをAppleが重視するあまり、「過剰に作り込まれた」("over-built")サービスが多く生まれてきてしまった。また過剰に作り込まれたサービスは、あとで手を加えたり、別のところで再利用することも難しい。

2) サービスをリリースする周期(アップデートのサイクルのことか)がハードウェア(新機種)の投入サイクルと結び付いているため、頻繁な更新を通じて改善を積み上げることもあまり行われていない(そうすることへのインセンティブが働かない)。

3)Appleの秘密主義の弊害で、社内の異なるチームが新しいサービスをそれぞれ一からつくり直すというケースが多く、過去につくられたコンポーネントが再利用されることもあまりない。

 こうした問題点を解決するために、Appleはサービス関連部門を切り離し、その責任者に本体とは別のP&Lを持たせながら、自由に動けるようにするという選択肢を選ぶことも可能ではないか。

 Thompsonはそんな自分の考えを記し、またそういう意図で「岐路に立つAppleの組織形態」というタイトルを付したと、このエッセイを話題に採り上げた自分のポッドキャストのなかで説明していた。

 「iPhoneやiPadのように、同じ種類の製品ならいくらバリエーションの数が増えようが心配していない(Appleの資金力と経験を持ってすれば簡単に問題を解決できる)」と記すThompsonの目には、それだけAppleのサービス・ビジネスがハードウェアのそれとは異質なものと映っている、ということかもしれない。

 Thompsonのこうした考えがどこまで的を射たものであるか。その答えがわかるのはしばらく先のことかもしれない。ただ、既存ユーザー、特にiPhoneユーザーの買い換え需要を喚起する上でも、あるいは既存ユーザー1人当たりの売り上げを増やしていく上でも、サービスの演じる役割がさらに大きくなっていくのはほぼ間違いないと思う。

 そうした点も視野に入れながら、Appleのサービスビジネスの今後の行方に注目しておくとちょっと面白いかも知れない。

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