イノベーションには、なぜIT部門の関与が必要なのか
IT部門がイノベーションに関わることの意義を改めて確認しておきましょう。IT部門の位置づけや専門性から考えて、IT部門がイノベーションに積極的にかかわることが、次の3つの点で大きな意義を持つと考えられます。
- 俯瞰的な視点:ビジネス部門の担当者は、当該事業および業務の専門家ではありますが、その事業・業務に視点が狭まっている傾向が強く、利害関係を乗り越えられない場合があります。これに対してIT部門は、全社的およびグローバルな視点を注入し、組織間の調整と相乗効果を促進する役割を果たすことができるはずです
- 斬新な発想:ビジネス部門は、当該事業および業務を継続的に改善することに長けていますが、現状や過去の成功または失敗体験に縛られる場合があります。慣れ親しんだ業務プロセスや慣習を捨てきれないことも珍しくありません。IT部門はビジネス部門と異なる視点で斬新なアイデアを持ち込み、抜本的な改革を提案することが有効な場合もあるでしょう
- 専門的な知識:ビジネス部門の担当者は、当該事業および業務の専門家ではありますが、ITの専門家ではなく、最新の技術やIT活用事例をつぶさに調査・研究する立場にはありません。IT部門は、企業内のITの専門家として最新動向と将来動向を踏まえたアドバイスを提供できるはずです
イノベーションのためのシステムに必要なIT部門の知識と経験
イノベーションの領域で、IT部門が保有する専門性が求められる場面があります。その重要なポイントがアーキテクチャ指向と運用視点です。ビジネス部門が推進するイノベーション案件は、早期立ち上げが重要視され、事業の成長に応じて変更や拡張が繰り返されるのが一般的です。
また、開始当初はそれほど性能や安定稼働が強く求められませんが、次第に運用要件が厳しくなることも珍しくありません。これらのシステムは、社内システムと違って事業活動に直結し、顧客や取引先に影響を及ぼすため、事業が本格化するに従ってミッションクリティカルな運用が要求されることとなるわけです。
ビジネス部門が推進するイノベーションを実現するシステムでは、クラウドを含む多様なシステムの乱立や、運用上のトラブルの問題を抱えることが珍しくなく、これはアーキテクチャ指向と運用視点の欠如に起因しています。
また、技術標準、セキュリティ、共通化・共有化・統一などによる全体最適化、運用効率や維持コストなどが考慮されていないことも問題となります。そこで、長年社内システムで培った知識や経験をイノベーション領域で発揮することが期待されます。
デジタル化が急速に進展する時代において、IT部門はもはやユーザー部門の要求通りにシステムを企画・構築して、運用していくだけの部門ではないことを、部分内外に宣言することが求められます。
そしてその宣言を実行に移していくためには、IT部門内の一人ひとりの意識改革が求められます。また、ユーザー部門や経営者の認識の変革を促すことも重要です。これは、IT部門という組織にとっても生き残りを賭けた挑戦といえます。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。