古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」

今、なぜ「Docker」なのか - (page 2)

古賀政純(日本ヒューレットパッカード)

2016-06-06 07:00

人工知能とDocker

 人工知能においては、ロボットや機械、家電製品などが連携し、知能化したシステムが人間を模倣した高度な情報処理を行うようになってきています。また、IoTに代表されるように、さまざまな電子機器、家電製品、工場の設備、自動車や公共システムなどから得られる膨大なセンサ情報、画像、動画情報などをビッグデータとしてIT基盤に溜め込み、さらに、ビッグデータをコンピュータの巨大メモリ上に配置する「インメモリ処理」に対応した人工知能のソフトウェアに大きな注目が集まっています。

 ちなみに、筆者も昔、人間の脳をコンピュータ上で模倣する「ニューラルネットワーク」(人工知能の一種です)をやっていたのですが、当時は、ほとんど全てを自前で一からプログラミングしなければなりませんでした。現在では、Docker環境のおかげで、オープンソースで公開されている人工知能エンジンをDocker環境にダウンロードし、少ない手順で稼働させることができるため、従来に比べて人工知能を業務に組み込むハードルがずいぶんと低くなったと言えるでしょう。現在の人工知能エンジンは、CPUだけでなく、GPU(グラフィックボードに搭載された演算装置)を駆使して高速計算を行えるようになっています。

 このGPUを駆使した計算も、従来であれば複雑なプログラミングが必要だったのですが、Dockerで簡単に利用できるようになりました。Dockerによって人工知能アプリ入りのOS環境をすぐに入手し、CPUだけでなく、GPUを使った高速計算を比較的少ない工数で実行できることは、人工知能を導入するにあたっての学習コストを大幅に低減でき、企業のIT基盤の知能化を大きく前進させることにつながります。


人工知能のオープンソースソフトウェアとしては、TensorFlow(テンソルフロー)、Caffe(カフェ)、Spark MLlib(スパーク・マシンラーニング・ライブラリ)などがあり、Docker環境で稼働させることができる

ハイブリッドクラウド基盤とDocker

 クラウド基盤においては、社外のサービス利用(パブリッククラウド)と企業内のサービス提供システム(プライベートクラウド)の両方を同時に利用する「企業システムのハイブリッドクラウド化」に注目が集まっています。

 機密性の高いビッグデータは、セキュリティの観点から社内に配置し、手元の高速なシステムで分析してユーザーにサービスとして提供します。一方、公開されているデータや社外向けウェブコンテンツといった機密性の低いデータはパブリッククラウドを利用するのです。このように、社内と社外のクラウドシステムを併用する「ハイブリッドクラウド」を採用する企業が増えているのです。

 Dockerは、1つのOSを複数の区画に分離し、別々の区画で別々のアプリやユーザー、ネットワークが存在し、あたかも複数のOSが存在しているかのように見える機能(分離されたものをコンテナと呼びます)を備えていますが、これにより、1つのOS上で異種Linux OS環境を実現でき、しかも性能劣化が非常に小さいことや、Docker環境の上で稼働する区画(OSとアプリをひとまとめにした環境)において稼働するOS関連の不要なシステムソフトウェアの数を少なくすることができるため、計算資源の有効活用を図ることができるのです。そのため、重量課金制でクラウド基盤を利用する側にとって、Dockerは非常に好都合なのです。現在、ハイブリッドクラウドにおいては、物理、仮想、Dockerの3種類の基盤への対応が必要とされており、特にDockerへの対応が各社において急ピッチで進められています。


技術の新潮流:ハイブリッドクラウドにおいては、物理、仮想、コンテナの3種類への対応が必要になってきている。筆者は、個人的に「ハイブリッドクラウド3本の矢」と呼んでいる
古賀政純
日本ヒューレットパッカード オープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリスト
兵庫県伊丹市出身。1996年頃からオープンソースに携わる。2000年よりUNIXサーバのSE及びスーパーコンピュータの並列計算プログラミング講師、SIを経験。2006年、米国ヒューレットパッカードからLinux技術の伝道師として「OpenSource and Linux Ambassador Hall of Fame」を2年連続受賞。プリセールスMVPを4度受賞。現在は、日本ヒューレットパッカードにて、Linux、FreeBSD、Hadoop、Dockerなどのサーバ基盤のプリセールスSE、文書執筆を担当。Red Hat Certified Virtualization Administrator、Novell Certified Linux Professional、Red Hat Certified System Administrator in Red Hat OpenStack、Cloudera Certified Administrator for Apache Hadoopなどの技術者認定資格を保有。著書に「Docker実践ガイド」「CentOS 7実践ガイド」「Ubuntu Server実践入門」などがある。趣味はレーシングカートとビリヤード。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]