Jobs氏によるエンジニアたちの扱い方と同じく、Disney氏もアニメーターたちを頻繁に酷使していたため、彼らの多くはMintz氏の誘いに乗った。かけがえのないキャラクターを失ったDisney氏は、気付いてみればIwerks氏以外のアニメーターまで失っていた。
Jobs氏がAppleを失ったように、Disney氏も自らの創造物を奪われた。そしてJobs氏と同じくDisney氏も、さらに優れた製品を生み出すことでカムバックを画策した。Disney氏が生み出した優れた製品とは、7分42秒のデモンストレーション「蒸気船ウィリー」に登場する「ミッキーマウス」だった。
しかしDisney氏は、オズワルドやフィリックス・ザ・キャットなど、当時を代表する人気キャラクターとの競争に懸念を抱き、自分の下を離れたアニメーターたちとの真っ向勝負にためらいを感じていた。
そんなDisney氏が競合よりも先んじたのは、映像と音声を同期させる技術だった。それまでもアニメーションでBGMは使用されていたが、映像の動きに合わせて効果音を付けるのは革新的な試みだった。たとえば「蒸気船ウィリー」の煙突は、蒸気が噴き出す音に合わせて縮んだり伸びたりしていた。
映像と音声の同期は、技術としても投資としても大きなリスクを抱えていたが、結果的には大成功につながった。「蒸気船ウィリー」は映画館で大ヒットとなり、ミッキーマウスはDisneyを代表するキャラクターとして本格デビューを果たした。
AppleもDisneyも、大好評を博した技術を自社で発明したわけではない。両社の功績は、目的にかなう技術を見つけ出し、その技術で自社製品を強化することで、強力な差別化を達成した点にある。
ここからは重要な教訓を学ぶことができる。まず、他人が発明した技術の採用を恐れないこと。次に、その技術が自分の製品に付加価値を与えてくれるかどうかを見極めることだ。
たとえばWi-Fiは、ラップトップに真の意味でのモバイル化という付加価値を与えた。「蒸気船ウィリー」の場合、新技術はミッキーマウスという既存のキャラクターを世界中で愛される象徴的存在へと転生させた。
自社が開発中の製品と、時代を先取りする最先端技術の相性を見極め、その技術を競合他社に先駆けて自社製品に採用するのは、極めて重大な差別化要因となり得るのだ。
5)異なる領域の技術や製品を新しい形で融合させ、業界の常識を塗り替える
今日では信じがたいことだが、昔の電話にはタッチ画面などなかった。
それどころか、昔の電話は壁から伸びた電話線につながっていた。目的地に向かうときは、道路標識と紙の地図が頼りだった。子供たちはバットとボールを持って通りに出て、友達と野球を楽しんだ。音楽は、レコードプレーヤーでレコード盤を再生して聴いていた。恵まれた人は何十枚ものレコード盤を所有していた。筆者自身は2枚しか所有したことがなかったが。