その方針のもとに実行した施策は明確であった。
例えば、プリンタでは、マイクロピエゾ方式と呼ぶエプソン独自のインクジェット技術にリソースを集中。それまで進めてきたレーザープリンタの開発を終息した。「後追いとなるレーザープリンタではエプソンの強みが発揮できない」(碓井氏)と判断したのがその理由だ。
これによって、少なくとも5つの観点で体質強化や方向転換、そして成果が上がっている。
ひとつは、オフィス向けプリンタをレーザーからインクジェットへと舵を切ったことだ。業界内には、コンシューマーはインクジェット、オフィスはレーザーという認識が今でも強い。実際、従来のインクジェットプリンタでは、高速性、高画質、耐久性などでレーザープリンタを凌駕するのは難しいとされてきた。
しかし、エプソンでは、その常識を覆すことに挑んだ。
レーザープリンタの開発者をインクジェットプリンタの開発へとシフト。これによって、オフィス市場で求められる堅牢性やペーパーハンドリングなどの設計ノウハウが活用されるようになった。
そして、最も大きなポイントは、「PrecisionCore」と呼ぶインクジェットプリンタヘッド技術を確立。これによって、オフィス向けプリンタとして求められる、高速性、高画質、耐久性でレーザープリンタを凌駕する製品を投入できるようになったことだ。ウォームアッププロセスがないため、最初の印刷までの時間が短いこと、構造が簡単であることからメンテナンスコストが低く、消費電力も低いこと、また、消耗品も低コストで済むといったメリットはレーザープリンタの弱点を突いたものとなった。
エプソンはこれにあわせて、オフィス向けインクジェットプリンタのラインアップを大幅に拡大。25機種以上をラインアップして「オフィスはレーザー」という常識を覆すことに挑んでいる。この成果はまだ道半ばだが、その存在感は明確になりつつある。
2つめは、オフィス向けプリンタの延長線上として「スマートチャージ」と呼ぶオフィス市場を対象とした課金モデルを導入したことだ。これは、最大7万5000枚までの大量印刷が可能な超大容量インクパックを活用することで、月額1万円で毎月モノクロ2000枚、カラー600枚を印刷できるサービスだ。
月2000枚の印刷をしても、インクタンクの交換が3年間不要であり、同じ枚数をレーザープリンタで印刷した場合には58本のトナーが必要になるのに比べて、運用コストや調達、在庫の手間などが大きく異なる。このビジネスは着実に広がりをみせており、今後、複写機市場へ本格進出するための足がかりにもなっている。
3つめは、大容量インクタンクモデルの事業拡大だ。
大容量インクタンクモデルは、2010年10月からインドネシア市場向けに販売を開始したもので、主に新興国市場向けの製品として展開してきた。だが、その後、先進国にも拡大。現在は、約140カ国で同製品を展開している。今年に入ってから、日本市場向けにも大容量インクタンクモデルを用意した。
2015年度を最終年度とする7年間の長期ビジョン「SE15」の総括(セイコーエプソン提供)