山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

規制されど盛り上がる中国版YouTuberの世界

山谷剛史

2016-05-24 06:00

 中国版YouTuber(中国語で網紅。本来はネットの有名人の意味)が人気となっていて、YouTuber養成学校が各地にできている。共産党のメディアには、「小学生が大きくなったらなりたい職業に『網紅』をあげ、子供に頼まれ網紅の養成学校に通わせている親もいる」という記事も出ている。一方でその記事では、「網紅が汚い言葉や、卑猥な言葉を発することがあり、親を失望させている」と書いている。先日中国政府からは、動画配信を管理する広電総局とコンテンツを管理する文化部が、網紅が配信している20のストリーミングサイトについて、低俗な内容があるかを審査すると発表。中国版YouTuber人気に「待った」がかかった。

 中国で中国版YouTuberが誕生した源流を振り返ると、動画サイトが乱立する中で、生き残りをかけたいくつかの動画サイトが、女性によるフリートークチャンネルと、主に男性向けのゲーム実況チャンネルを作ったところにさかのぼる。

 こうした動画サイトは去年の前半まで、変化の小さな動画界の一ジャンルに過ぎなかったが、トークが上手な1987年生まれの女性の配信者「papi醤」が登場して状況は変わった。彼女は口コミで一気に有名になり、網紅の称号を受けた。さらに彼女が1200万元の資金調達をしたというニュースが伝わると、チャイニーズドリームとして中国版YouTuberを目指す人が増えた。そんな矢先の、政府からの規制。政府当局によれば「審査の通ったコンテンツは配信できる」ということで、「papi醤つぶしではない」そうだ。

 さて中国版YouTuber養成学校の話に戻る。中国のIT系メディア「電脳報」が報じた特集記事によれば、こうした養成学校はpapi醤の後を追っておもしろフリートークのプロを目指すのではなく、自身のチャンネル(自媒体)で動画商品を紹介したり、ECサイトに構えた自分の店で販売したり、願わくば各個人が他社の広告塔として広告費を稼げるようにしたりするのがゴールの学校が多いという。学生は、16歳から24歳の若い女性が多い。動画で活動するなら美しいに越したことはないということで、トークだけでなく、化粧の仕方から、ダイエットのための運動まで、学校がサポートする。たった2日のレッスンで、学費は1万元(約17万円)と高いが、それでも網紅を目指す女性が大挙してやってくる。整形手術をした上で、レッスンを受ける人すらいる。

 作られた魅力的な人が量産されることで、映画業界が目を付ける。最近では動画サイトのオリジナルコンテンツ作りが競われる中、養成された網紅を活用して、ネット配信向け動画をつくる動きが見える。早くも一部の網紅学校は中国全土にオフィスを展開し、映画業界でも使える人材を育成しようとしている。

 網紅ブームとともに、金と美とフォロワーを求めるニーズに応え、中国全土で網紅学校ができ、網紅は量産される。自称網紅人口が1000万人を突破するのもそう遠くないという。誰もが同じ動画配信をすることで、飽和するのは目に見えている。だがその先で生き残った網紅は、莫大な利益を得ることになる。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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