富士通がクラウド事業を一段と強化した。国内市場では存在感を増しつつあるが、同社が目指すのは世界市場での躍進だ。ぜひ得意分野で世界トップを目指してもらいたい。
2割に迫るSaaSやプライベートクラウドの国内シェア
富士通が先ごろ、IaaS/PaaS型クラウドサービス「FUJITSU Cloud Service K5」(K5)を中核としたデジタルビジネスプラットフォーム「FUJITSU Digital Business Platform MetaArc」(MetaArc)の強化を発表した。顧客企業のデジタル革新の実現に向けて、既存の基幹システムのクラウド移行や、新規ビジネスの迅速な立ち上げに向けたICT基盤の構築を加速させるのが狙いだ。
強化内容は、顧客企業の複雑化したICTインフラの最適化に向け、システムの移行計画の立案から設計、システム構築までを総合的に支援するサービスや、既存システムのK5へのスムーズな移行を可能にするサービスなどを新たに提供するものだ。その詳細については関連記事(1、2)を参照いただくとして、ここではK5の市場競争力に焦点を当てたい。
K5は、IaaS構築用ソフト「OpenStack」やPaaS構築用ソフト「Cloud Foundry」といったオープンソースソフト(OSS)に基づくオープン技術と、富士通のシステム開発や運用ノウハウを融合したクラウドサービスである。提供形態としては、パブリッククラウドやホステッドプライベートクラウドといったサービスと、オンプレミスでのプライベートクラウド向けがある。
今回の発表会見では、自ら算定した2015年度の国内クラウド市場のシェアとして、SaaSが18%、IaaS/PaaSが9%、プライベートクラウドが19%だったことを明らかにした。この区分でいうと、K5はIaaS/PaaSとともにプライベートクラウドの相当量が含まれているとみられる。さらに同社のクラウド事業規模は、2015年度で前年度比21%増の2900億円、2016年度にはこれを同21%増の3500億円に引き上げる目標を掲げている。ただ、このうち「サービス」がどれくらいの割合かは明らかにしていない。
会見に臨む富士通の執行役員専務デジタルサービス部門長の香川進吾氏(左)と執行役員常務グローバルマーケティング部門長の阪井洋之氏
ホステッドプライベートクラウドサービスでナンバーワン宣言
会見で説明に立った富士通執行役員専務デジタルサービス部門長の香川進吾氏は同社のクラウド事業について、「クラウドサービスというとAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureが目立っているが、K5はこれらと同じように利用できるだけでなく、顧客ニーズに応じて柔軟に競合サービスと連携を図ることもできる。最も重要なのは顧客ニーズに的確に応えることで、当社としてはどのような形態でも対応できるように努めていきたい」と語った。
とはいえ、クラウドで世界市場にも本格的に打って出ようという同社にとっては、サービスそのもので市場競争力を発揮することも非常に重要な取り組みではないか。そう考えた筆者は会見の質疑応答で、事業そのものに勢いをつけるためにも「富士通が得意とするクラウドサービス分野において、国内外でトップになると宣言してはどうか」と聞いてみた。得意とする分野というのは、ホステッドプライベートクラウドサービスを想定しての質問である。
これに対し、同社執行役員常務グローバルマーケティング部門長の阪井洋之氏は、「ホステッドプライベートクラウドサービスは得意とする分野だが、それを含めてマルチクラウドやハイブリッド環境に対応したインテグレーションを、当社の最大のアドバンテージにしていきたい」と答えた。
ただ、香川氏は「宣言」する格好の機会と捉えたようで、K5を担当する同社デジタルビジネスプラットフォーム事業本部 本部長の太田雅浩氏に発言を促し、ついに「ホステッドプライベートクラウドサービスでナンバーワンをとる」(太田氏)との宣言となった。
宣言があったので、あえて一言もの申し上げておきたい。クラウドサービス分野では、確かに米国勢をはじめとしたグローバルベンダーは強力な存在だが、日本のベンダーもホステッドプライベートクラウドサービスではまだまだチャンスがあるはずだ。ぜひ世界市場を見据えて挑んでほしい。とりわけ富士通には、その先陣を切ってもらいたいものである。