国立情報学研究所 (NII)は5月27~28日に学術情報ネットワーク「SINET5」の開通報告などを含めた一般向けイベント「オープンハウス」を実施した。NIIは研究と事業を両輪として活動に取り組んでおり、日本の学術情報ネットワーク(ScienceInformation Network:SINET)の構築と運用を担っている。
この4月から運用を始めたSINET5は、全都道府県を100Gbpsの超高速回線で結んで国際回線も増強し、信頼性や機能性を高めた、日本の学術コミュニティの発展に不可欠なインフラストラクチャであるという。
SINET5は 全ての都道府県に速度100Gbpsをフルメッシュでつないだネットワークであり、米国とも100Gbpsで接続している。また、欧州とは初めて直接20Gbpsのネットワ―クを敷いたという。
NII所長 喜連川優氏
NII所長の喜連川優氏は広帯域ネットワークが全国で必要な理由として、トラフィックが増えている昨今、全国にネットワークが張り巡らされていることがデータ活用などを通し地方創生に大きく貢献できると説明。「クラウドの構築とは異なり、ネットワークを構築するには手間と時間がかかる。ネットワークは学術の動脈でもある」と強調した。
さらに2008年にノーベル物理学賞を獲得した「小林・益川理論」の検証に大きく貢献したBelle測定器や、小柴昌俊氏や梶田隆章氏が観測に使用したカミオカンデ、スーパーカミオカンデなどを例に挙げ、巨大な実験装置が膨大なビッグデータを生み出す点や、そうした最先端の研究にもSINET5が対応できると説明。
喜連川氏は、今後もさらに転送されるデータ量の増大が予想されると指摘し、適宜ネットワークの帯域を調達するといったその場しのぎの対応ではなく、今回はダークファイバ(空いている光ファイバ)そのものを調達した点が成果だとした。これにより両端の伝送装置を変えることで転送能力を上げられると成果を示した。実際、SINET5を模して構築した実証実験用の400Gbpsネットワーク環境で、2対2のサーバ間での370Gbpsのデータ転送実験に成功したと発表している。
また、SINET5で8K映像が送れることに触れ、例えば鮮明な医療映像をリアルタイムで送れば「手術室の中ですら本人しかみることができなかった細い糸を利用した手術シーンを遠隔で確認でき、教育にも役立つ」と指摘。SINET5が天文学などの学術分野だけでなく、身近な領域まで幅広く利用できるとした。
今後はSINET5をどのように使うか競うアイデアソンを開催すると発表、企業にも利用してもらうとして、その公共性を主張した。