壮大な計画は破綻する
一方、“禁じ手”としてパネリスト全員が指摘したのは、「最初に壮大な青写真を描き、一気に導入しようとすること」だ。Campbell氏は「ARに対する期待値を適切に設定すること。例えば、大学のキャンパスすべてをARにするといった計画は無理だ。『ARの可能性は無限』と『何でもAR化できる』はまったく違う」と警鐘を鳴らす。
米PTC Vuforia担当 シニアバイスプレジデントを務めるJay Wright氏
米PTCでVuforia担当 シニアバイスプレジデントを務めるJay Wright氏も、「(予算などの制限を考慮し)どこまでやれるのかを明確にすること。ステップ バイ ステップで製品を導入し、様子を見ながら進めていくことが成功の秘訣」と述べた。
企業のAR導入で課題となるのが、ROI(投資利益率)の算出である。導入企業が少ないがゆえに、「どの分野にどのぐらい投資すればよいか」を悩んでいる企業も多いという。Hand氏は自社の例として、「教育時間/コストの低減」「遠隔地のメンテナンスに要する交通費や移動時間の削減」「テクニカルナレッジの水平展開」を挙げる。
「例えば、遠隔地の機器で部品交換が必要な場合を想定してほしい。遠隔地から、どの部分が、どんな故障をしているのか判断することは困難だ。画像をやり取りしても判別しないことはある。こうしたケースでは、間違った部品を持っていってしまうことも少なくない。ケアレスミスをなくせるだけでもコストは削減できる」(Hand氏)
もう1つの関心事は、ウエアラブルデバイスとARの組合せだ。Vuforia Studio EnterpriseはiPadなどのデバイスで表示できるが、一般的なウエアラブルデバイスには“まだ”対応していない。この点についてWring氏は、「PTCではARやVR(仮想現実)のハードウエアに対して投資している。ウエアラブルデバイスは評価段階であり、今後開発が進むと期待している」との見解を示す。
Hand氏も「ウエアラブルデバイスは開発段階。機能はともかく、その形状が普通のメガネのようにならないと普及は難しい」とした上で、「タブレットは手で操作しなければならないが、ウエアラブルデバイスは両手が空く。このアドバンテージは大きい」と語る。Hollstrom氏は、「ウエアラブルデバイスはROIで見れば実験段階だ。将来的な価値を理解して投資している」と述べた。
会場にはウエアラブルデバイスを利用したARソリューションも多く展示されていた。両手が自由になるアドバンテージはあるものの、その形状には開発の余地がありそうだ(写真提供:PTC)