米Microsoftがビジネス向けSNSを運営する米LinkedInを買収すると発表した。果たしてMicrosoftはLinkedInを生かすことができるか。
MicrosoftとLinkedInの両CEOは何を語ったか
LinkedInが運営するビジネス向けSNSは、欧米の企業経営者やビジネスパーソンを中心に、ビジネス交流やリクルーティングの場として利用されており、会員数は4億3300万人を数える。
同社の2015年12月期の売上高は29億9000万ドル、純損失は2億1400万ドル。前期に引き続いて2年連続の赤字にもかかわらず、会員数は前期比19%増と伸びていることが、今回Microsoftが買収する大きな動機になったようだ。
買収総額は262億ドル(約2兆7800億円)。Microsoftにとっては過去最大の買収となる。買収手続きは2016年内に完了する見通しだ。買収後もLinkedInのサービスブランドや独立した運営体制は存続するとしている。(関連記事参照)
Microsoftの最高経営責任者(CEO)であるSatya Nadella氏はLinkedInについて、「世界中のプロフェッショナルを結びつけるという素晴らしいビジネスを成長させてきた」と評価したうえで、「当社はLinkedInと共にこの成長をさらに加速し、Office 365やDynamicsの成長も実現し、世界中のあらゆる企業や個人を支援していきたい」と、今回の買収への意欲のほどを示した。
また、LinkedInのCEOであるJeff Weiner氏も、「当社がこれまで人々の新たな機会との結びつき方を変革してきたように、今回のMicrosoftとの新たな関係、そして同社のクラウドとLinkedInのネットワークとの組み合わせが、人々の働き方を変革する新たな可能性を提供すると確信している」とのコメントを寄せた。
期待されるOffice 365やDynamicsとのシナジー効果
今回の動きでまず印象が強いのは、Microsoftがサービス事業に一段と傾注する姿勢を明らかにしたことだ。同社はここ数年、クラウドサービスに相当な勢いで注力しており、今回のLinkedInの買収もその延長線上にある。
とはいえ、具体的にLinkedInのSNSをどう生かしていくのか。Nadella氏のコメントからは、Office 365やDynamicsとのシナジー効果を期待していることがうかがえる。ビジネス利用に特化したSNSだけに、利便性を追求しサービスとしての融合が進むことは想像に難くない。
ただ、LinkedInはこれまで完全に独立した運営体制だっただけに、今回の買収で会員がどのように思い、どう動くかは未知数だ。その人間的な感覚は、サービスとしての利便性とは別次元の話のような気がする。むしろ、その感覚をMicrosoftがどう生かせるか、注目されるところだ。
日本マイクロソフト代表執行役会長の樋口泰行氏に今回のLinkedInの買収について聞いてみたところ、「現段階では米国での発表内容が全て」と前置きしながらも、次のようなコメントを寄せてくれた。
「先見の目を持ち、技術の見極めも鋭いSatyaが、5年先、10年先を見据えて決断した買収だ。彼の頭の中では、LinkedInを生かしたサービスの将来像が明確にできあがっているのだろう」
加えて、これまでは今ひとつだった日本でのLinkedInの普及についても聞いたところ、「日本でも労働の流動性が高まってきていることから、LinkedInがこれから活用されるケースが増えてくるのではないか。人材活用においてもピアツーピアのやりとりが大きく広がっていくだろう」との見方を示した。
果たしてNadella氏はどのような将来像を描いているのか。ぜひとも聞いてみたいところである。
左から、LinkedIn CEOのJeff Weiner氏、Microsoft CEOのSatya Nadella氏、LinkedIn会長のReid Hoffman氏