MicrosoftとLinkedInが、PowerPointのプレゼンテーションのような形で野心を明確に示すことはないかもしれないが、今回の買収は戦略的に見れば合理的だ。ビジネスプロフェッショナルのソーシャルネットワークを手に入れたMicrosoftは、これを利用して、同社の事業や人への接点をより生産的なものにしようとしている。一方、LinkedInは人的資源を活用するソフトウェア会社を指向しているが、そのためのスキルを持っていなかった。
理論上、この2社は互いの不足を補い合うことができ、Microsoftは人事管理ソフトウェアの市場で一定の力を持つようになる可能性がある。262億ドルの買収(プレミアムはなんと49.5%)は、Microsoftの最高経営責任者(CEO)Satya Nadella氏の構想が複雑なものであるかもしれないということを示している。
Nadella氏は従業員に対するメッセージで、次のように述べている。
われわれは、人と組織のエンパワーメントを中心とした、共通の目標を追求している。「Office 365」の商用利用および「Dynamics」事業の成長と、この買収契約は、生産性とビジネスプロセスを改革するというわれわれの大胆な目標を達成するための鍵となるものだ。考えてみてほしい。人々が職を探し、スキルを身につけ、ものを販売し、マーケティングを行い、仕事を片付け、最終的に成功するためには、プロフェッショナルな人材のつながりが必要だ。それには、LinkedInのソーシャルネットワークが持っているプロフェッショナルの情報と、Office 365やDynamicsが持っている情報とを組み合わせた、力強いネットワークが必要となる。この組み合わせは、例えばユーザーが関わっているプロジェクトに基づいてLinkedInでニュースフィードを提供したり、Officeでユーザーの作業を支援できる専門家とのLinkedIn経由でのつながりを提案するなどの、新たな体験を可能にする。これらの体験がよりインテリジェントで、より快適なものになるにつれて、LinkedInとOffice 365の連携は深まっていくだろう。またそれと同時に、個人や組織のサブスクリプションやターゲット型広告を通じた、新たな収益化のチャンスも生まれてくる。
注目すべきは、Nadella氏が何を言わなかったかだ。Microsoftは人材管理アプリケーションの食物連鎖にもっと深く関与しようとしている。Nadella氏は人事をクラウドと深く結びつけることをほのめかした。現時点では、Microsoftは今回の買収で支払うプレミアムを正当化する理由として、Bingの改良や、クラウドアナリティクス、LinkedInのデータを使用したOffice、Dynamics CRM、多くの共同作業ツールの改良など、さまざまなものを挙げている。
Nadella氏はカンファレンスコールで、HCMソフトウェア市場は「Microsoftにとって非常に刺激的なチャンスだ」と述べている。また同氏は、LinkedInが持つ「エコノミックグラフ」は、多くのアプリケーションで活用可能だとも付け加えている。
Office 365、LinkedIn、そしてDynamicsの組み合わせについて考えて見てほしい。これこそがわれわれのコアだ。そしてこれらを組み合わせれば、ネットワーク資産でもあるクラウド資産を持つことになる。CRMは単なるCRMではなくなり、ソーシャルな販売手段を伴うCRMになる。HCMは単なるHCMではなく、人材管理の遠隔管理ソリューションやLinkedIn経由での人材採用を伴うHCMになる。われわれは今や、そういうものを作れるようになった。
MicrosoftによるLinkedInの買収は、同社が今後人事管理ソフトウェアとの接点を増やしていくことを意味している。