藤本恭史「もっと気楽にFinTech」

FinTechでサクッと顧客体験を向上しよう - (page 3)

藤本恭史

2016-06-20 07:00

ECに見るユーザーエクスペリエンスの落とし穴

 同じような事例は、ECのビジネスの中でよく見られます。購入のためのコンバージョン率を高めるためには、前述のようにデジタルウォレット決済やID決済を導入すれば、決済にかかるカスタマーの負担をかなり減らしユーザーエクスペリエンスを改善することができます。PayPal、楽天ID決済、アマゾンログイン&ペイメントなどを活用すればより素早い決済の実現が可能です。初回購入時に16桁のクレジットカード番号を入力しなくて済む、というのはかなりカスタマーの負担を減らしますよね。PCはもとより、より小さい画面での操作を要求される成長著しいモバイル決済やアプリ内決済においては特に重要なポイントです。しかし、決済だけが簡単になってもその前後のユーザーエクスペリエンスが同様に素晴らしいものでなければ意味がありません。

 PayPalがJECCICA(一般社団法人ジャパンEコマースコンサルタント協会)と共同で行った調査に衝撃的な結果がありましたのでご紹介しましょう(調査結果を含むホワイトペーパー「中小EC企業向け2016年EC戦略白書」はこちらからご覧いただけます)。

 ECに関わらず、インターネットビジネスにおいてはいかに会員情報を獲得できるかというのが1つの課題で、一旦会員情報を獲得できればメールやクーポンなどでリーチを高め、エンゲージメントを高めてカスタマーのライフタイムバリューを上げていくことができる、これがマーケティングの定石だったかと思います。

 しかし上記調査で明らかになったのは、初めて利用する中小のECサイトにおいて、96%のカスタマーが会員登録することに何らかの抵抗感を感じており、会員登録が必要な場合、50%以上の人が、電話番号や住所などを正確に入力していない、という事実です。購入のためには会員登録が必要になる場合でも、メールアドレスですら18%の人が正確な情報を入力しない、氏名や性別であっても28%が正確な情報を入力しない、と回答しています。


ayPalとJECCICAが実施した共同調査の結果、多くの人が中小のECサイトへの会員登録に抵抗感を持ち、正確な情報を入力していないと回答した

 つまり、事業者側が真実と信じていた顧客情報が不正確なものである可能性があり、その価値自体に疑問符が生じます。ではどうすべきでしょうか。それは、「会員情報獲得を必須にしないユーザーエクスペリエンスにする」というのが1つの回答です。現在の世界的なトレンドは無理やり会員獲得をせず、ゲストのままで決済を完了させる、というものに移行しているようです。実際、強制的な会員登録を必須にしているショップの比較を日米のECサイト売上高ランキングで行うと、Top 100の比較では日本が70社会員登録必須にしているのに対し、米国では26社となっています。Top 25で比較すると、日本21社に対して米国はたったの2社という衝撃的な結果がわかりました。


強制的な会員登録を必須にしているサイト数の日米比較、米国では会員登録を不要とするのがトレンドになっている

 つまり、このデータからは米国においては会員獲得を強制せずとも(もしくはしないほうが)売上げが増える傾向にある、というトレンドが見て取れます。日本はこのトレンドから大いに遅れているかもしれませんね。

 結論として、精度の低い会員情報獲得のためにプロセスを増やしてコンバージョン率を下げるよりは、(1)まずゲストのままでよいから購入してもらう、(2)そしてFinTechを取り入れたより素早く簡単かつ安全な決済手段によって可能な限り購入意思決定から決済までのプロセスとリードタイムを短くし、可能な限り購入に素早く到達する。それによって、(3)よりよいユーザーエクスペリエンスを顧客に提供し、次回以降のサイト回帰率を高くすることを狙う--ということです。ちなみにPayPalをご利用の場合、同じECサイトで自動ログインを選択すれば2回目以降の購入の際はパスワードすら要求されません。もしくは最近リリースした「ワンタッチ」というサービスをご利用いただければ、同じデバイス上でPayPal決済対応のほかのECサイトでの購入でも、パスワードを入力することなくワンクリックで購入が可能になります。

 実際、ECショッピングユーザーが急速に成長している現在、全てのショッピングサイトやモバイルサービスで会員登録、クレジットカード登録をさせる、というのはカスタマーにとってペインポイントでしかありません。なぜならそのカスタマーは、そのショッピングサイトでは初めてのお客様かもしれませんが、一方でほかのサイトではヘビーユーザーかもしれないのですから。強制的な会員登録でカゴ落ち(カスタマーが商品をショッピングカートに入れたにも関わらず途中で買い物を中断してしまうことです)が発生し、二度と戻ってきてくれないよりは、煩わしさを排除して気持ち良く購入してもらい、またサイトに戻ってもらうように心がける方がはるかにカスタマーの心を掴むはずです。皆さんのビジネスのカスタマージャーニーは大丈夫でしょうか?

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