問題はイギリスが離脱する背景
イギリスが欧州連合(EU)を離脱することに経済的合理性はないと言われる。それは国民投票後の市場の反応を見れば明らかだ。では、なぜ国民投票はEUからの離脱を選んだのか。
日本経済新聞に掲載されたFTの記事は、グローバル化の果実が偏って配分され、特に、リーマンショック以降にその不公平感が増幅されたことが原因だと指摘する。つまり、富の偏在の問題に多くの人々が不公平感を抱いており、イギリスにおいては、それがEU離脱という形で表れたのだ。
FinTechの中心地としてのUK
そのイギリスは、FinTechの中心地として他国を大きくリードする存在である。そして、皮肉にもFinTechがそう呼ばれる前、テクノロジベンチャーによって始められた金融イノベーションのムーブメントは、富を享受できない99%の人々の生活をより良くするためのものであった。
それらは、金融機関を経由しないP2Pの仕組みを送金、融資、投資などに適用し、お金の流れに自分たちの意志を反映させることを目指した。そして、イギリスは、こうしたイノベーションのトレンドを国家施策として支援してきた。
FinTechは何を目指すのか
そのFinTechのリーダーであるイギリスにおいて国民がEUからの離脱を選択するという現実に直面し、改めてFinTechとは何なのかを考え直さざるを得ないだろう。FinTechをリードするイギリスにおいてすら、それは市民のお金の問題を解決できていないのだから。
FinTechが目指しているものが間違っているのか、単に浸透していないだけなのか、時間軸が合っていないのか。
FinTechは誰もが取り組むべきテーマとなったが故に「金融とテクノロジを……」といった表面的な定義は同じであるにせよ、なぜ取り組むのか、何のために取り組んでいるのか、何を目指すのかといったことは、各々の関わり方によって大いに異なっているだろう。
今回イギリスで起きたことは、FinTechというバズワードはいったん忘れ、金融サービスとはどうあるべきなのか、改めてそれぞれの立場から考える契機と捉えるべきだろう。テクノロジによって何を解決するのか、それはあるべき金融サービスをもう一度定義してからでも遅くない。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてベンチャー企業投資、海外事業投資を担当。同社にて銀行系システムの開発を担当後、決済サービス分野を中心にソリューションの企画を手掛ける。2012年に金融イノベーションの活性化を目的として金融イノベーションビジネスカンファレンス(FIBC)を立ち上げ、2015年よりフィンテックベンチャーへの投資事業を開始。金融革新同友会「Finovators」副代表理事。マンチェスタービジネススクール卒業。知る人ぞ知る現代美術の老舗「美学校」にも在籍していた。報われることのない釣り師。