6月29日の日経平均は243円高の1万5566円だった。ブレグジット(英のEU離脱)可決ショックで急落した世界の株式が足元、落ち着いてきたことを反映し、日経平均も続伸した。
英国のEU離脱がどういう形になるのか、2つのシナリオが考えられる。1つは、英国とEUがけんか別れとなる「ハードランディング」だ。もう1つは、話し合いによって双方が受ける経済的ダメージが最小となるような形を見つける「ソフトランディング」だ。
6月24日は、ハードランディングへの恐怖から世界の株式は急落した。その後、ソフトランディングの可能性もあることがわかり、世界の金融市場はやや落ち着きを取り戻している。このことについて、楽天証券経済研究所長兼チーフストラテジストの窪田真之氏の見解を紹介する。
英国は本当にEUを離脱するか?
わざわざ国民投票まで実施したのだから、投票結果に従い、英国は離脱手続きを速やかに開始すると考えるのが普通だ。ただ、国民投票の結果に法的拘束力はない。2015年7月にギリシャで行われた“国民投票”では、チプラス首相が投票結果と逆の選択をした。
ギリシャはEUが求める緊縮財政への賛否を問う国民投票を実施。投票結果は、緊縮財政受け入れに反対61.3%、賛成38.7%だった。ところが、チプラス首相は直後に国民投票の結果とは反対の「緊縮受け入れ」を決断した。
EU離脱を問う今回の英国民投票では、賛成51.9%に反対48.1%と僅差で離脱を可決した。ところが、離脱に投票した英国民に「離脱に投票したことを後悔」の声も広がっており、再投票を求める署名が多数集まっている(署名数が正確にわからない。一時「400万人に迫っている」と報道されていたが、1人で3万回以上署名したという不正も見つかっており、実数がわかりにくくなっている。ただ、再投票を求める署名が多いことは事実だ)。
こうした状況を受けて、すぐ離脱をEUに通告していいものか、英政府に迷いがある。英国の世論がどう変化するか、英政府はしばらく様子見しながら考えることになりそうだ。
離脱交渉がまとまらないまま、2年後にEU離脱が確定するハードランディング
EUからの離脱プロセスを定めるリスボン条約50条では、英政府がEUに離脱を通告してから離脱の条件交渉を始めると規定されている。離脱の条件を英国とEUで話し合う。とても難しい交渉で、交渉は長期化が予想される。
交渉を開始してから2年たっても話し合いがまとまらず、交渉期間の延長が合意されない場合は、その時点で英国へのEU法の適用が停止される。これがハードランディング・シナリオだ。
英国とEUの間に新たに包括的な自由貿易協定を結ぶことなく離脱が決定すると、英国とEUの間の貿易には、すべて関税がかかるようになる。人の行き来も遮断される。そうなると、英国経済もEU経済も、深刻なダメージを受けることになる。こうなると、英国では、離脱に反対していたスコットランド、北アイルランド、ロンドン市などで、英国からの独立を求める運動が広がると考えられる。
英国に積極的に投資してきた日本企業は、ハードランディングの可能性が残るうちは、英国への新規投資を停止せざるを得ない。最終的にハードランディングが確定すれば、英国から脱出を図らざるを得なくなるからだ。