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英EU離脱のソフトランディング・シナリオ - (page 2)

ZDNet Japan Staff 2016年06月30日 12時20分

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ソフトランディング・シナリオが実現するためのハードル

 EU離脱の条件交渉で重要となるポイントに、以下の(1)~(5)がある。交渉は難航するだろうが、相互に妥協して交渉をまとめることができると、ソフトランディングの可能性が生じる。

(1)英国・EU間の人の移動の自由について

 年間30万人もの移民が英国に流入していること、そのうちの半分がEU域内から来ていることに、英国民の不満が高まっている。離脱派の主張を入れるならば、EUからの移民や出稼ぎを制限する必要がある。ただし、そうなると、困る人が英国の残留支持派に多数いる。

 例えばロンドン市もそうだ。EUから優秀な人材が取れなくなると、国際金融都市としての競争力が低下する。

 英国民投票で、離脱派と残留派の差はわずかだっただけに、英政府は、残留派と離脱派の両方の主張を考慮してEUと交渉しなければならない。人の行き来を自由にしたまま移民を制限する方法をEUと交渉することになると考えられる。

 移民に対する反感はEU主要国全般に広がっている。これに何らかの形で対処をしないと、反移民・反EU勢力がEU内にどんどん拡大することになりかねない。英国が「EUとの人の行き来の自由」を残した上で「移民に対する一定の制限」だけを目指して交渉するならば、EUと合意できる可能性もあるだろう。

(2)英国・EU間のモノの移動の自由について

 英国・EU間の貿易取引に関税がかかるようになると、英国にもEUにも深刻なダメージが及ぶ。そうならないように、英国・EU間で、新たに包括的な自由貿易協定を結ぶことは、両者にとってメリットがある。その意味で自由貿易協定の締結交渉は進みやすいと考えられる。

 EU加盟の英国を除く27カ国と個別に交渉すると時間がかかり過ぎるので、EU諸国全体と包括的な協定を結ぶことを目指すと考えられる。EUの本音は、英国との貿易関係をそのまま維持したいわけだから、交渉がうまく進む可能性はある。

 ただし、EUには複雑な事情がある。EUを離脱する英国に、無条件で加盟国の特典(人とモノの行き来の自由)をすべて残すわけにはいかないのだ。そうなると、EU加盟の主要国に英国だけを特別扱いすることへの不満が高まるからだ。

 英国に、これまで通りEUへの拠出金を負担させるなどの条件を課し、英国がそれをのむならば、包括的協定の締結を進めるという形で交渉を進めることになるだろう。

(3)EUへの負担金

 ドイツやフランス、英国などがEUへの拠出金の多くを負担している。英国は、これまでに負担金が多い割に恩恵が少ないと、EUに負担金削減を繰り返し求めている。EUは、英国をつなぎ止めておくために、英国だけに負担金の一部返還制度を作っている。

 英国は結果として、経済規模の割には返還金差し引き後の負担金の額が少なくて済んでいる。英国が離脱後、この負担金をまったく支払わなくなるのならば、EUは英国にEU法の特典をそのまま認めることはできなくなる。離脱後も、何らかの形で英国が負担金を拠出することをEUは求めてくると考えられる。

 ここが非常に難しい交渉となる。英国は、何らかの形で負担金を支払い続けることで、EUとの経済関係を維持することを目指すだろう。その時、英国内の離脱派をどこまで説得できるかが鍵だ。国民投票で可決したのは、「EUを離脱すること」だけで、具体的な条件まで投票で決めたわけではない。

 人やモノの行き来の自由や負担金を残すことで、EU離脱の効果を実質的に骨抜きにすることは可能だ。英国内の離脱派と残留派、双方の主張のぶつかりあいを経て、どこまで離脱の実効を「骨抜き」にするか、英政府は手探りしながらEUと交渉していくことになるだろう。

 英国内の世論もまとまらず、EU内の意見統一もできなければ、英国の離脱交渉は、2年どころか延長されて5年以上かかるとの見方もある。

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