中国で急増する街歩きツアービジネス

山谷剛史

2016-07-12 06:00

 中国で少々変わったビジネスに触れる機会があったのでご紹介したい。筆者が拠点とする中国の地方都市で、有志による街歩きツアーに参加した。「現地の外国人が利用する喫茶店体験ツアー」というもので、掲示板サイトで見つけて申し込んだ。旅行ガイドではなく、素人による1~2時間程度のツアーで参加費は500円程度。参加者は大学生や若い社会人が多かった。主催者が予め話を通しておいてくれた喫茶店を何軒か訪問し、それぞれの参加者が別料金でお茶やコーヒーを注文し、一服するという内容だ。

 集合場所に行くと主催者が参加費を集め、同行していたボスとおぼしき人物にそれを納めている。主催者にこの仕組みを聞いたところ、街歩きツアーの企画立案は自身が行い、(掲示板サイトの所有者でもある)ボスにツアーを行うことを伝えて催行すると、参加者数に応じて売上が分配されるのだそうだ。シンプルな掲示板サイトで募集をかけているので、ボスも参加者数を把握している。

 こうした掲示板サイトは(言い方はいろいろあるが)「倶楽部」というそうだ。こうしたサイトは中国各地にあり、それぞれがその地に根ざし、ほぼ地元民だけが利用する。「オシャレな喫茶店巡り」「こだわりの雑貨屋の巡回ルートをご紹介」「歩いて痩せよう」といったテーマを掲示板管理人に相談して告知し、参加者を募る。街歩きツアーにとどまらず、キャンプや、ロッククライミング、スカイダイビングなど、アウトドア系の倶楽部もある。そして、今も新しいジャンルのツアーが続々と誕生している。

 ツアー当日、主催者は自分のこだわりを存分に説明して小金まで稼ぎ、運がよければ同じ趣味趣向の人と出会うこともできる。中国で倶楽部と呼ばれる掲示板がどこから発生したかは不明だが、中国全土で倶楽部が登場したことにより、倶楽部を認知する人が増えている。利用者が増えれば増えるほど、趣味のツアーの主催者にも倶楽部サイト管理人にもお金が落ちる。

 日本では自治体や観光協会などによるイベントをよくみるが、中国では、サイトを運営するのもツアーを考えるのも個人で、主役は若者というあたりが、変化の激しい中国らしいところ。中国全土の地方都市レベルでこうしたツアーがあるということは、中国全土でこだわりの趣味があり、それを披露したい人が中国全土で台頭してきたことを意味する。上海や北京や深センだけでなく、所得も比較的低く、娯楽施設が整っておらず、人生の成功をアピールするためにiPhoneやブランドバッグで飾ることばかりが意識される地方都市にまで、新たな価値観を提供し、同じ趣味の人をマッチングする新たなサービスが広がっているのは面白い。それがサイト管理人にとっては金を生むだけの新ビジネスだとしても。

 中国人の爆買いの終了がニュースで報じられている。それには免税店の評判が悪くなったとか、買い物よりも経験へシフトしたとか、ツアー旅行から個人旅行へシフトしたといった、いくつもの要因が重なっているようだ。ひょっとすると、「個人旅行」という概念の先に、ないしはその形態の1つとして、日本各地発の倶楽部のサイトが登場し、有志の個人が現地集合で趣味に合わせた中国人観光客を引き連れる、そんな日本での旅行スタイルも出てくるかもしれない。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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