新しいクラウドの潮流

モバイルクラウドに異なる進化の形を求めるIoT--新しいクラウドの潮流(5) - (page 2)

日高 盛之(セキュアスマート)

2016-07-13 08:00

IoTが必要とするネットワークとは

 このように固定通信、モバイル通信、バックボーン回線はどれもニールセンの法則通り高速化の方向で進化してきた。ところがこの進化に対して異なるアプローチからの進化が必要となってきた。その原因がIoT(Internet of Things)である。

 現在世界の人口は70億人強であるが、IoTでつながるデバイス数は、調査会社によってばらつきはあるものの、2020年には概ね300億個から、多いもので10兆個以上になるとの予測もある。既にAppleWatchなどのウェアラブルデバイスには、加速度計やジャイロスコープ、心拍や血圧、体温を計測するセンサなどが複数搭載されている。もしこれらが将来インターネットに接続されると、膨大なセンサ数の予測もあながち大げさとも言えないことが理解できる。

 この多種多様かつ大量のデバイスが接続されるIoTの世界は「大きな情報を扱う分野のIoT」と「小さな情報を扱う分野のIoT」に大きく2つに分けられる。

 実は、この2つのIoTでは必要とされるネットワーク要件が異なるのである。

 「大きな情報を扱う分野のIoT」では、今まで通りネットワークの高速化が重要である。すなわちIoTデバイスとクラウド間で大量の通信を高速・低遅延に行うことが重要となるネットワークである。特にAR/VRの実用化においては、高いリアルタイム性と大量のデータ通信を両立させる必要がある。

 それでは「小さな情報を扱う分野のIoT」ネットワークに必要な要件とはいったいどういうものであろうか。

 ここで例として、山奥に設置した温度計から情報を収集することを考えてみる。1時間毎に取得した温度情報をクラウドに送ると仮定する。温度情報のデータ量は数バイトとし、1時間毎に届けばいいので、高速性もリアルタイム性も必要ない。

 一方、ネットワークの状況としては、固定回線は通じておらず、無線も届くか届かないかの状況であろう。もちろん電気も通じておらず、電池での動作することが前提であり、電池交換の手間も可能な限り減らしたい。このような状況で求められるネットワークは、「LPWA(Low Power Wide Area)」と呼ばれる、「低速」でも電波到達距離が長く、電力消費量が少ないものである。

 しかもデバイスの数が非常に大量になるため、超低価格が求められる。つまり、「小さな情報を扱う分野のIoT」デバイスにとっての通信は、「高速化」より「低消費電力」と「超低価格」が重要だということである。

 現在のIoT向けのネットワークは、既存のモバイル通信を利用しつつ、通信速度を制限することで超低価格を実現しているものがほとんどである。確かにBLE(Bluetooth Low Energy)やZigBeeなどの消費電力の少ない無線通信の規格がいくつか存在してはいるが、近距離通信が対象であるため、長距離通信が可能な低消費電力の無線通信規格の実用化が求められている。

 IoTの実現にあたっては、今まで通りの「通信の高速化」が必要なネットワークと、「低消費電力」で「超低価格」が必要なネットワークという、異なる2つの特徴を持ったネットワークが必要となる。

これからのモバイルクラウドに必要なネットワークとは

 これまで述べてきたように、IoTでは異なる特徴を持ったネットワークが複雑に絡み合い、互いに補完することで、新しい付加価値を生み出し、新しいビジネスへとつながっていくのである。

 さらに米Cisco Systemsが推進する「フォグコンピューティング」に代表されるネットワークエッジでのコンピューティングの最適化やセキュリティ面の強化等ネットワークの追加機能はまだまだあり、さらなる付加価値を生み出す可能性は無限大である。

 ネットワーク側から見ると「IoT」も「モバイルクラウド」の進化形の一つであり、今後も「モバイルクラウド」の新たな進化形が出現することが期待される。

日高盛之(ひだか もりゆき)
モバイルクラウド推進室長
1972年 鹿児島県生まれ。情報セキュリティアドミニストレータ。熊本のSI、NI企業において、拠点間VPN上でのVoIPシステムを構築。2004年にクラウド型VPNサービスの立ち上げに従事。WindowsMobile端末1,000台以上のVPNシステム構築等、多数の案件を担当。現在は、クラウド型VPNをベースとしたVDIシステムやDaaSサービスの企画推進に従事。

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