研究現場から見たAI

考えるロボットは実現するか--歴史から学ぶ人工知能との未来 - (page 3)

松田雄馬 2016年08月08日 07時00分

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第2次ロボットブームとビジネス化

 ロボットや人工知能をはじめとする多くの科学技術は、研究成果が一般の目に触れてブームとなり、ブームが収束し、多くの研究者が離れていった後にも粛々と研究活動を続けている研究者が、新たな時代を創るというのが興味深い点である。

 1920年代の第1次ロボットブームが収束した40年後、第2次ロボットブームの舞台の中心は日本であった。

 第ニ次世界大戦以後、多くの産業領域で「オートメーション(自動化)」が進んでいく一方で、器用さが必要な単純労働に関しては、相変わらず人手による作業がほとんどだった。この点に注目したGeorge C. Devol氏が、単純労働を実行できる自動マニュピュレータのアイディアを1954年に特許出願したのが、「産業用ロボット」の開発は始まる。

 この技術は、Joseph F. Engelberger氏らと共に1959年に産業用ロボット「ユニマート」として製品化された。人間の腕の動きを模倣する1本の腕が、プログラムによって動作パターンを自由自在に変更できる「多能機械」という新しい概念を持つ技術であった。

 この「ユニマート」に代表される産業用ロボットは、西洋社会では、「ロボットは怪物」という宗教的な見方があり、普及が遅れる一方で、まさに高度経済成長が始まった時期であり、将来的に労働力の不足が強い強迫観念として渦巻いていた日本には、非常にポジティブに受け入れられ、爆発的なブームとなった。1967年に豊田織機に「バーサトラン」が導入されたのを皮切りに、多くのロボットが、労働力不足を補っていくようになった。

 当時、川崎航空機工業が主催した産業用ロボットセミナーに招待され来日した Engelbergerは、400人を超える企業経営者が押しかける会場に、あまりの米国との違いに面食らったと言われている。第2次ロボットブームでは、200以上の日本企業がロボット研究に従事していたと言われている。

 こうした背景から、今でも日本のロボット開発技術は世界最先端であり、日本の大学や研究機関では、海外出身の研究者も少なくない。1920年代のアメリカとイギリスに始まった第1次ロボットブームは、40年の年月を経て、産業用ロボットを用いて労働力不足を解決するというビジネスに結実したのである。

第2次ロボットブームを超える新しい潮流

 産業用ロボットの成功から、工場のような限られた環境だけではなく、現実世界で人間のように考えて行動する知能ロボットの開発が期待された。その結果、実を結んだのが、自動掃除ロボット「ルンバ」でお馴染みの、iRobot社を設立したMITコンピュータ科学・人工知能研究所所長のRodney Brooks氏が提唱した「ぶつかったら避ける」仕組みを指す「サブサンプション・アーキテクチャ」という考え方である。

 Brooks氏のサブサンプション・アーキテクチャは、日本語に翻訳すると「包摂的な構成」である。「ぶつかったら避ける」仕組みは、三層構造になっており、第一層には、自分に近づいてくるものがあればそれを避ける仕組み、第二層には、目標物が見つからなければ徘徊する仕組み、第三層には、予め決められた目標物に向かっていく仕組みから成り立っている。

 サブサンプション・アーキテクチャの登場によって、工場のような管理の行き届いたロボットにとって動きやすい環境ではなく、家のような、場合によってはロボットが動きにくい雑然とした「実空間」で動きまわることができるようになった。

 サブサンプション・アーキテクチャの登場までの経緯を説明しておく。ロボットにとって、どんな障害物があるのかが予測できない「実空間」で動き回ることは非常に難しく、当初は、「実空間」を認識して障害物などを考慮に入れて動作する、高度な知能の研究開発に注目が集まっていた。センサを使って空間をすべてサーチし、バーチャル地図を作ったうえで、その中で障害物等を考慮に入れつつ、身体を制御するという高度なシステムの開発に多くの研究者が従事していた。

 それに対し、Brooksは、極端に表現すると「ぶつかったら避ければいいじゃないか」という単純な仕組みを導入することを考えた。従来の「知能ロボット」に比較するとあまりに単純な仕組みであるが、これにより、周囲の環境を細かく把握することなくとも、自由自在に動き回り、かつ、「ぶつかったら避ける」仕組みは、障害物だけではなく、人が近づいてきても避ける動作をすることから、外から見ると、まるで、虫のような知能を持っているように見えた。

 こうした「まるで知能があるように見える」知能を、Brooksは「表象なき知能」と表現し、従来の、センサを使って空間をすべてサーチしてバーチャル地図のようなもの(表象)を作ることなくとも、高度な「知能」を実現できることを示してみせた 。

 この「表象なき知能」の延長線上に、蹴飛ばしても倒れず、氷の上でも何とか体制を立て直して歩き続けるBoston Dynamicsの四足歩行ロボット「ビッグドッグ」を始めとする、まるで生き物のように動き回るロボットが実現し、現在も、多くの「知能ロボット」が開発されている。

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