研究現場から見たAI

考えるロボットは実現するか--歴史から学ぶ人工知能との未来 - (page 4)

松田雄馬

2016-08-08 07:00

ロボットと人工知能はどこへ向かうのか

 ビッグドッグのようなロボットを見ていると、まるで自分の意志で動いている動物と同じように見え、「これが街を歩き出したら人間社会は(ポジティブな意味でもネガティブな意味でも)とんでもないことになるのではないだろうか」という気持ちになる。

 しかしながら、ここで注意すべき点は、彼らはまだ、「どこへ行くべきか」という意思を持っていない点である。極端に言えば、ラジコンとそれほど変わらないものであり、人間が「どこへ行くか」を決めて初めて前進することができる。

 もちろん、従来のラジコンに比べると、格段に、自律的に動作を決めることができるようになった(だからこそ滑りやすい氷のうえでもバランスを取れるようになった)。しかしながら、動作の目的そのものは、人間が与える必要がある。

 本連載で繰り返し述べてきたように、機械と人間の違いは、「自分で目的を決めることができるかどうか」に尽きる。現在、機械を利用することによって、多くの作業ができるようになった。しかしながら、「何をすべきか」「どこへ行くべきか」といった目的は、人間にしか決めることができない。

 ロボットや機械制御の分野に閉じた領域で「何をすべきか」を考えると、ビジネスへの応用の多くは、第二次ブームからの伝統である産業ロボット(決まった作業の自動化)であったり、震災後特に需要が増えている、災害現場など危機的な状況でも動き回ることができるロボットであったり、といったものの開発が盛んである。

 一方で、近年のドローンやIoT技術の普及によって、コミュニケーションロボットをはじめ、企業や一般家庭で役に立つロボットへの需要が高まっている。携帯電話でもありロボットでもあるシャープのロボホンや、長崎ハウステンボスの変なホテルの受付ロボなどはその一例であり、SFの世界で描かれていたようなロボットが、少しずつ実現されつつあるという意味では興味深い。

 今後、こうした、人工知能を始めとするIT技術とロボット技術との連携が広がっていき、さまざまな製品が実験的に生まれることが予想される。IT技術者やロボット技術者だけでなく、企業や一般家庭の「より良い」姿を模索する多くのプレイヤーがこの市場に参入することで、真に役に立つコミュニケーションロボットが誕生することが予想され、非常に興味深い。

松田 雄馬(工学博士)
2007年3月、京都大学大学院情報学研究科修士課程修了後、2007年4月、日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。無線通信の研究を通して香港にて現地企業との共同研究に従事。その後、東北大学と共同で、脳型コンピュータの基礎研究プロジェクトを立ち上げる。
2015年6月、情報処理学会DICOMOにて同研究により優秀論文賞、最優秀プレゼンテーション賞を受賞。
2015年9月、東北大学にて博士号(工学)を取得。
2016年1月、日本電気株式会社(NEC)を退職し、独立。
現在、ラオスをはじめとする発展途上地域における情報技術の現状を調査するとともに、そうした地域ならではの新事業を創出する企業の設立準備を実施している。

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