もちろん、例えばFinTechの進んでいる英国と日本では環境が違います。英国では以前からオープンデータを目指す戦略があり、国としてたとえば銀行のAPI化を推進する環境ができている。
英国では、評価額が10億ドル以上の「ユニコーン企業」の数が、同国のFinTechに関する産業団体の掲げるKPI(key performance indicator:重要業績評価指標)になっています。2015年の6~7月の同団体の報告では「今は世界中のFinTech領域の15頭のユニコーン企業のうち英国は2頭だが、2020年までに15頭までその数を増やします」ということでした。日本はまだ一頭もいないというのが実情です。それくらいのプレイヤーが出てきていないので、日本もやるべきことは非常に多い。
FinTech企業の支援施設であるFINOLABや、創業を支援する専門家集団FINOVATORSなども、自分たちの創立目標に「ユニコーンを生み出す」という表現を掲げています。「時価総額をKPIにするのはどうなのか」という意見もありますが、時価総額はビジネスの期待値と実力を掛けあわせたものなので、それでやっていいのではないか。FINOLABができたのは今年2月とごく最近ですが、すでに40社くらいの入居企業が生まれました。この施設は成長戦略というよりは新産業創出を目標としていますが、5~10年後には雇用を生めるプレイヤーになっていることが期待されています。こうしたものは産業競争力会議のテーマなので、内閣府が主導しています。それが日本再興戦略に反映されたわけです。
政党におけるFinTechの動き
もうひとつ大きいのが政治の動きです。
まず、FinTech議連(FintTech推進議員 連盟)が2015年12月17日に発足しました。そして、自民党政務調査会の財金部会(財務金融部会)が、筆者を含めたFinTechプレイヤーからビジネスの説明をする機会がありました。その流れの先で、FinTechをめぐる戦略的対応を自民党として発表するということがあったのです。その内容、第一弾という名称の割には、非常に具体的なものです。アクションプランに近いものが出てきたことは、今般の一連の制度改定を支えるもの考えています。
日本再興戦略の概略図のなかには、大きくFinTechが入っていますが、他のジャンルと比べると、今時点で見えているFinTechの経済規模はまだ大きくない。「自動走行」は自動車業界全て。「個別化健康サービス、介護ロボット活用」は介護事業全てで、「スマート工場」も、すごく規模の大きな話です。まだFinTechは150億円しか投資されていない領域なのですから、さまざまな制度改定や、新たな領域のプレイヤー誕生を促していく必要があります。
このように成長戦略としての位置づけが重くなるという流れがこの4~5月くらいまでの出来事となります。ただし、多くの議論はまだ途上にあり、たとえばビットコイン、銀行と利用者の間に立つ中間的事業者のありかたなどは、今後、しかるべき場所において議論されていくはずです。

日本再興戦略2016