Olsavsky氏はマルチクラウド戦略が、既存のインフラやサーバにしがみつくIT部門の文化に対する短期的なアメでしかなく、長期的な成功戦略ではないと考えている。この点については、AWSの最高経営責任者(CEO)Andy Jassy氏も過去に同様の考えを明らかにしている。Olsavsky氏は顧客が「AWSを選択する主な理由は3つある。それはわれわれがもたらす機能性と、イノベーションのペース、そしてわれわれがパートナーや顧客とともに作り上げているエコシステム、われわれの経験だ」と述べている。
これらそれぞれはシンプルだが、クラウド分野での飛躍を目指すうえでのさまざまな複雑さを生み出している。
もちろんOlsavsky氏も、市場規模を考えた場合に「この事業では複数ベンダーが共存する余地は大きい」と認めている。しかし、AWSが革新性をいかんなく発揮することで、獲得可能なクラウド市場全体の大半を飲み込みつつあると同氏が考えている点は明確にしておく必要がある。
われわれが新たなアプリケーションサービスや、上位スタック、さらなるテクノロジに対する投資を続けることで、ハイブリッドIT環境を有する企業によるAWSとの統合をシームレスなものにしつつ、そのうえでデータ分析やモバイル、IoT、機械学習といった機能を追加し続けることでAWSの顧客により大きな価値をもたらそうとしているのが分かるはずだ。
そして、速いペースでイノベーションを実現することにより、そうした分野でのわれわれの優位性をさらに強固なものにしていける。われわれは2016年前半に、422の特筆すべきサービスや機能を新たに追加した。このペースは、722のサービスや機能を追加した2015年を上回っている。このためわれわれは、現在の自社の立ち位置や、顧客に対する立ち位置に満足している。
ここで明確にしておくべきは、AWSが(実際のところ、あらゆるベンダーが)サードパーティーのIT環境との「シームレスな」統合について語る場合、顧客のデータを招き入れる導管について話しているという点だ。Olsavsky氏も、AWSは「顧客が自社のハイブリッドデータセンターとAWSとのやり取りを容易に行えるようにしたり、自社データのAWSへの移行を容易に行えるようにするためのものごとに取り組んでいる」と、同じ主旨の言葉を述べている。
データを招き入れる導管という考え方は、アーキテクチャの相違から、落とし穴をたくさん抱えていることが多い。これは顧客を囲い込むための卑劣な手段ではなく、ソフトウェアやクラウドにおける事実を述べているにすぎない。どのプロバイダーもそれぞれ異なるテクノロジを利用しているのだ。そうしたプラットフォーム上でいったんシステムを構築した後は、異なったアーキテクチャに基づくクラウドへのワークロードの移行は一筋縄ではいかなくなり、概してコストや手間に見合わないものとなる。クラウド間のポータビリティは、InfoWorldのEric Knorr氏の言葉を借りると、「夢物語」にすぎない。