藤本恭史「もっと気楽にFinTech」

消える決済と未来の姿 - (page 2)

藤本恭史

2016-08-04 07:00

消える決済 ~Uberの例~

 Uberは言わずと知れた世界58カ国、300以上の都市で展開している自動車の配車サービスであり、ハイヤーやタクシーからライドシェアまで手配することができるとても便利なサービスです。


 私自身は、Uberのお膝元の米国ではレンタカーを利用して自分で運転するので実はUberを使ったことがありません。私がUberを利用するのはシンガポールや上海など、タクシーを利用した方が便利な都市であり、その例でお話ししたいと思います。

 シンガポールではローカルのタクシー配車アプリが発展しているため、ビジターはホテルなど以外ではタクシーが捕まえられないのでUberは便利です。それよりも、あくまで個人的感想ですが上海での便利さは群を抜いています。上海にはものすごい台数のタクシーが走っていますが、夕方のラッシュ時には本当に捕まえるのが難しい。そして、中国のタクシー配車アプリは中国語で読めないのでそもそも使えない。さらに上海は英語が通じないことが多く、私は中国語が話せないのでドライバーに行き先を伝えるのも苦労する。究極が、上海のタクシーはお世辞にも綺麗とは言えない(笑)。さらにお支払いは現金か交通カードで基本現金を持ち歩かないといけない。

 Uberはこれらを全て解決してくれます。まずUberアプリは普段使っているものをそのまま現地でも使えますので当然文字が読むことができ、ユーザーエクスペリエンスも変わりません。Uber内の地図だけ正確に指定できれば漢字を調べなくても配車先や行き先の指定に苦労しません。アプリで呼べば指定の場所に自動的に配車されますので英語の通じないドライバーと会話をする必要もなく(しかもUberのドライバーは英語がわかるケースが多いみたいです)、Uberのドライバーは評価制度がきちんとしているのでみんな自動車を綺麗にしていて車内がとても快適です。

 そして素晴らしいのは、支払いはUber経由で登録されている決済方法(米国やオーストラリア、そして欧米の多くの国でPayPal決済が可能です)を使ってバックエンドで行われるので、支払いに関してドライバーと直接やり取りをする必要がありません。ドライバー、乗客それぞれのUberアプリに規定料金から算出された同一料金が表示され、それを確認するだけです。レシートはのちにメールで届きます。とても明朗会計でタクシーよりも安くなることも多く、何より言葉が通じない環境でお金のやり取りを行うドライバーとの対面プロセスをスキップできることは、精神的な負担を大幅に軽減してくれます。


 現金であれクレジットカードであれ交通カードであれ、人前で財布を出す、という行動はそれだけ潜在的なセキュリティのリスクを増加させます。Uberのサービス提供プロセスにおいては、決済というプロセスがユーザーエクスペリエンス上から魔法のように消えてしまっているのです。

 このようにUberは馴染みのない土地で、そして言葉の通じない環境において、どこでも同等レベルのサービスが提供されるようバックエンドで統一プラットフォームを提供することで、ドライバーの人柄と運転技術以外の要素を管理してクオリティを担保してくれます。

 国によってタクシーのサービスレベルは異なりますし、車内の清潔さ、チップの有無と計算、値段交渉の有無、ドライバーのクオリティなどさまざまな差異があります。Uberは、そういった本来であれば自分自身で解決しなければならないチャレンジから解放してくれます。そして、決済をプロセスから無くし明朗会計を徹底することで、少なくともタクシーに乗るという行為によって発生する可能性のある金銭トラブルやセキュリティリスクからわれわれを守ってくれるのです。これはビジネスモデルとFinTechが融合した素晴らしい例だと言えます。

決済の未来の姿

 このような例を見ていくと、いろんな日常生活の中で“お金を支払う”“決済をする”という行為が本当に必要なのかという疑問が出てきます。先に述べたように、人前で財布を開けてお金を払う行為はすでに儀式的なもので、ビジネスモデルが優れていればこれからは必要ないものなのかもしれません。究極的には、私たちはお金を支払うことに時間をかけたいのではなく、そのお店やサービスが提供する目的に時間をかけたいからです。


 特にUberのようにシェアリングエコノミーやC to Cの世界においては、サービス提供者とサービス利用者間、もしくは個人間での直接の金銭のやりとりは公平性やセキュリティの面からリスクを増加させる要因になります。ここで第三者のプラットフォーマーが決済基盤を提供することによって、リスクの減少とともにユーザーエクスペリエンスを飛躍的に増加させることができるのです。

 そして、こういったシェアリングエコノミーやC to Cサービスはこれからも増えていくでしょう。決済はどんどん透明化していき、デジタルウォレットによって共通化された決済手段を活用してバックグラウンドで処理されていく傾向になるでしょう。

 なぜなら、私たちの持っているスマートフォン上にはすでにさまざまなシェアリングエコノミーサービスアプリがインストールされており、日常生活に浸透し始めています。それに加えてECのアプリ内決済を利用する機会も増加しています。1つのモバイルで利用するサービスが増えてきている中、それら全てが個別の決済手段とユーザーエクスペリエンスを持つことを消費者は将来にわたって望むでしょうか。決済していることを感じさせない決済、しかしシステム上公平な取引がなされていることが担保されている決済、これが決済の1つの未来の姿となるでしょう。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]