デジタル人事の時代

デジタル時代のワークスタイル変革--ホワイトカラー領域に侵食するロボティクス - (page 4)

田中公康 平野圭祐

2016-08-12 07:00

デジタル時代のワークスタイル変革とは

 ワークスタイル変革はともすれば業務改善や労働時間の削減に終始することが多く、社員の生産性や創造性を高めるところで行きつくまでに息切れを起こし、途中で目的を見失いがちなケースが見られる。

 『ワーク・ルールズ!』によれば、「自由度の低い組織」(トップダウン・階級型、の指揮統制で社員の裁量は限定的)と「自由度の高いモデル」(従業員の自主性の尊重と信頼をベースに社員の裁量を認める)においては、自由度の高いモデルの方が従業員から創造的で洞察に富むアイデアを得ることができる 。Googleでは従業員に自由を与え、内発的動機を引き出すことで、社員と会社の成長がリンクした独自のカルチャーを生み出し、優秀な人材の確保に成功している。

 デロイト トーマツ コンサルティングの提供しているワークスタイル変革サービスの核となる考え方も従業員の自発性に力点を置いている。いかに社員が生産的で創造的な仕事に取り組めるか。そのような状態をつくるために何が障害となっているのか。どのような対策を講じるべきか。従業員からの自発的なアイディアの提案と結集させ、組織全体に変革を促すアプローチである(図5)。

図5:働き方改革のアプローチ
図5:働き方改革のアプローチ

 ワークスタイル変革には、トップダウン(経営層)の強力なリーダーシップは不可欠だが、画一的な目標や方法を各職場に落とし込むのは困難かつ、現実的ではない。職場ごとに業務の特性が異なり、働き方が異なるため、職場を最も理解している各社員にワークスタイル変革のアイデアを募り、小集団で実践することが効果的だ。

 また、職場のアイデアをデジタルテクノロジにより実現することで、ワークスタイル変革の推進に寄与するだけでなく、カルチャー全体を変えることにつながる。個々の社員の業務時間を任意の項目で記録することが可能な時間管理ツール「toggl」などを活用するのも手だが、市場に見つからなければ職場でアプリを開発してしまうのも手だ。

 社内にリソースがなければ、クラウドソーシングを活用して、時間や手間をかけずに形にできる。一方、テクノロジの導入は、往々にして全社で担う形になりがちであり、セキュリティルールなどの制約や手続きが支障になり、変革のスピードダウンにつながりやすい。

 その場合は、職場の裁量の範囲でできることを形にし、職場で実践をした後に、社内展開の必然性やニーズを検証するアプローチが考えられる。いずれにせよ従業員の自発的なアイデアを形にすることで、従業員をユーザー目線に立たせることができ、職場の生産性や創造性の向上に自分事として取り組むカルチャーの醸成が期待できる(デジタルカルチャーの創出)。

 また社内の小集団の活動と併せて横串の取り組みを導入することで集団の知恵を結集することができる。例えば、「Slack」などのチャットツールがある。Slackに代表されるデバイスフリーのチャットツールは市販化されており、用途に合わせてアプリを使いわけ、コミュニケーションの活性化やコミュニティ形成が可能だ。

 このような小集団とデジタル化の乗算を通じて、社員の生産性や創造性の向上や新たなカルチャーの醸成を促すことができる。

まとめ

 最先端の技術の導入と拡大によるホワイトカラーの価値の見直しが進んでおり、日本人の働き方は変革を迫られている。クラウドソーシングの活用やホワイトカラーの領域におけるロボティクスの導入の進行は疑いがない。

 ホワイトカラーの価値自体が問い直されていくなか、どのように人材を管理していくべきなのか。次回は、労働市場の主役として台頭してくる、1980年代半ば~2003年生まれの、いわゆるデジタルネイティブである「ミレニアル世代」の特徴を踏まえて、デジタル時代の人材マネジメントについて考察したい。

田中公康(デロイト トーマツ コンサルティング ヒューマンキャピタルユニット マネジャー)
外資系コンサルティングファーム、IT系ベンチャー設立を経て現職。デジタルテクノロジを活用した新しい組織・人事ソリューションの開発に従事。 直近では「デジタル人事」領域の推進リーダーとして、ワークスタイル変革以外にもクラウド、 ソーシャルメディア、ビッグデータを組織・人事の世界に応用し、 生産性向上や職場環境の改善を積極的に推進している。
平野圭祐(デロイト トーマツ コンサルティング ヒューマンキャピタルユニット シニアコンサルタント)
平野圭祐(デロイト トーマツ コンサルティング ヒューマンキャピタルユニット シニアコンサルタント) 「デジタル人事」領域の中心メンバーとして、テクノロジーを用いた新しい人材マネジメントやワークスタイル変革のR&Dならびにクライアントサービスに従事。加えて、豊富な海外経験を有し、東南アジア・欧州における赴任に裏打ちされた日系企業の海外展開のコンサルティングを得意としている。Workday HCM資格を保有。

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