米国時間7月27~29日、米Microsoftが主催する世界最大の学生向けITコンテスト「2016 Imagine Cup World Finals」がシアトルの本社で開催された。日本からは国内予選を勝ち抜いた筑波大学Biomachine Industrialチームが視覚拡張ウェアラブルデバイス「Bionic Scope」のプレゼンテーションを披露。ほかにも参加35カ国がそれぞれプレゼンテーションを行い、熱い闘いを繰り広げた。大会1日目の様子を紹介した前編 に続き、本稿では後編として大会2日目と3日目の様子をレポートする。
技術力だけでは勝ち進めないプレゼンの壁
Imagine Cup大会2日目は、前日に行われた各国のプレゼンテーションを受けて、「ゲーム部門」「イノベーション部門」「ワールドシチズンシップ部門」の計3つのカテゴリーから、それぞれ1位から3位までの入賞チームが発表された。各部門の1位に選ばれたチームは、翌日に開催される最終決勝戦へ進み、ワールドチャンピオンを懸けて闘う。
ワールドシチズンシップ部門で1位を獲得したギリシャのTeam AMANDA
各部門の結果は以下の通り。
- ゲーム部門 1位 タイ(ユニークな操作方法の侵入型パズルゲーム) 2位 インドネシア(環境への認知度を高めるためのパズルゲーム) 3位 ブラジル(干ばつ問題の意識を高めるためのゲーム)
- イノベーション部門 1位 ルーマニア(人間の姿勢のデータを生かした医療ソリューション) 2位 スリランカ(低コストで使いやすいデジタルサイネージプラットフォーム) 3位 アメリカ(弱視の診断で医師と患者を支援するためのソリューション)
- ワールドシチズンシップ部門 1位 ギリシャ(いじめの検知と防止を目指すICTベースのアプローチ) 2位 チュニジア(腕を失った人のためのスマート義手) 3位 ハンガリー(安全で正確な患者の診断を支援する仮想現実アプリ)
Imagine Cupは、単に技術力やアイデアの斬新さを競うわけではない。テクノロジを使って社会の問題解決に役立つソリューションや新しい価値を提供するプロダクトなどを形にし、それらが社会にどのようなインパクトを与えるのかをプレゼンテーションで伝えなければならない。英語力はもちろん、プレゼンテーションの能力、審査員とのコミュニケーション力、チームワークやパッションの見せ方など、さまざまな要素が必要とされるのだ。
日本代表の筑波大学Biomachine Industrialチームは、残念ながら入賞を逃す結果に終わった。チームリーダの村田耕一さんはプレゼンテーションを振り返って、「フィージビリティ(実現可能性)に関する部分が足りなかった」と自身の分析を述べた。自分たちが開発した視覚拡張ウェアラブルデバイスが、社会でどれだけ必要とされ普及する可能性があるのか。より現実味のある数値やデータなどが必要だったというのだ。
医療用ウェアラブルを発表したルーマニアが優勝
大会最終日はワールドチャンピオンをかけて、各部門の1位に選ばれたタイ、ギリシャ、ルーマニアの3国が競い合った。最終プレゼンテーションに与えられた時間はわずか3分。この短い間に3人の審査員を魅了しなければならない。審査員には専門家のほか、スペシャル審査員として「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」に出演したハリウッドスターJohn Boyega氏が登場。会場が一気に盛り上がった。
ルーマニアの最終プレゼンテーションの様子
決勝の結果は、医療用のウェアラブルデバイス「ENTy」を発表したルーマニアのチームが優勝を手にした。同チームが開発した「ENTy」は、上半身にセンサ付きのベルトを装着するだけで、人間の姿勢をリアルタイムにデータ化し、専用のアプリに記録するというもの。目眩などのバランス感覚が影響する病気の診断や、患者自身が自分の姿勢を可視化するのに役立つソリューションだ。すでに医者の協力を得て実証実験も行っており、これまで500人以上の患者でテストを実施した。プレゼンテーションでは、こうしたデータをもとに説得力あるスピーチを披露したことが評価された。
ルーマニアのチームを引っ張った女子学生はENTyの開発経緯について、「この分野の治療はこれまで、高価な大型医療機器が必要とされており、診察を受けられる病院も限られていた」と説明する。その課題解決に向けて、ITを使って低価格で誰でも使用可能なソリューションを目指したのがENTyだ。「ENTyを使えば、24時間いつでも人間の姿勢をトラッキングし、医者や患者が必要な時にデータを診察に生かせる」とアピール。これまでの治療方法を一歩前進できると強調した。ルーマニアのチームは優勝賞金5万ドルを獲得。今後、さらにENTyの利用者を広げていく考えだ。
テクノロジは課題解決のために使うもの