クラウドコンピューティング市場の中でも、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)部門は一般によく知られているが、これはユーザーが多いためだ。「Office 365」や「Salesforce」「Box」「Google Apps」などのクラウドアプリケーションを直接利用する経験がある人は多いだろうが、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)を使ってアプリを開発したり、IaaS(サービスとしてのインフラストラクチャ)を使用して、データセンター規模の数の仮想マシンを管理したことのある人の数は少ないだろう。
Gartnerが2015年版のクラウドコンピューティングのハイプサイクルで、SaaSを「生産性の安定期」(Plateau of Productivity、社会一般への導入を達成したサイクルの最終段階)の近くに置き、「営業支援SaaS」(Sales Force Automation SaaS)はすでにその段階に達したと位置づけたのも驚くべきことではない。
提供:Gartner
1999年創業のSalesforce.comがSaaS業界で最初の「業界の申し子」であることを考えれば、Gartnerのハイプサイクルで営業支援SaaSがトップに来ているのも当然だろう。Salesforceは今や550億ドル企業であり、MicrosoftやAdobe、SAPなどのソフトウェア大手企業が躍進しているにも関わらず、依然としてエンタープライズ向けSaaS市場の首位にとどまっている。
提供:Synergy Research Group
Gartnerによれば、2016年には世界全体でのパブリッククラウドサービスの市場規模は2040億ドル(前年比16.5%増)に達するという。「クラウドアプリケーションサービス」(SaaS)は、このうち18.5%(377億ドル相当、前年比20.3%増)を占める。
データ提供:Gartner、グラフ作成:米ZDnet
Gartnerは発表文の中で、「ソフトウェアベンダーはビジネスモデルをオンプレミス向けのソフトウェアライセンス販売からパブリッククラウドベースの製品に移行しており、この傾向は今後も続く。それに加え、2015年に何社かの大手ソフトウェアベンダーがパブリッククラウド市場に参入したことが、SaaS市場の成長を後押しすると予想される」と述べている。
この記事では、現在のSaaS市場の重要トレンドについて見ていくことにする。
水平展開型SaaSと垂直展開型SaaS
SaaSアプリケーションはこれまで、会計および財務、分析およびビジネスインテリジェンス、協調作業、顧客関係管理(CRM)、Eコマース、エンタープライズリソースプランニング(ERP)、人事(HR)、セキュリティなど、幅広いビジネス機能を扱ってきた。これらは、Salesforceに代表される「水平展開型」のSaaSアプリケーションだ。
しかし、1つのエンタープライズソフトウェアがすべての顧客に適しているとは限らない。例えば医療事業者は、自組織の業務に合わせて作られたクラウドサービスを導入したいと思うかも知れない。また特定市場向けの重要な機能を求めている場合、その分野に詳しい専門的なソフトウェアベンダーが必要となる。
これが、特定の市場に特有のビジネス課題を解決する「垂直展開型」のSaaSアプリケーションが増えている理由だ。この分野は「業界クラウド」と呼ばれている。