海外での注目事例を考える
小川氏:製造業や流通業関連だとブロックチェーンの事例はいかがですか。
川村氏:日本では経産省のレポートをきっかけに、金融から他のインダストリに広がってきたのだと思いますが、金融と他のインダストリーが一体になって動くエリアというのが非常に有効でないでしょうか。他のインダストリが金融に取って代わっていけるという意味で、海外では流行ってきているかと思います。

川村篤史(日本IBM コグニティブ・インダストリーソリューション事業部 決済ソリューション担当部長)
代表的な例として、貿易企業についてはいろいろなところで議論されていると思います。例えばシンガポール政府はもともとフィンテックに注力していますが「自分のところは貿易立国だから」と旗を振り、貿易の仕組みをブロックチェーンで作る取り組みが今まさに始まっています。そういうエリアや、それに付随する物流の情報をIoTにからめながらブロックチェーンに乗せていくという取り組みも、米国やヨーロッパでどんどん始まっています。
金融機関は自分たちの仕事があって、真ん中にいるSWIFT(国際銀行間通信協会)などの決済機関がなくなったら、という話をしていました。しかし最近は、逆に金融機関抜きで取引が成り立つという想定ケースも増えてきています。ポイントや仮想通貨をブロックチェーンで利用するのはその例で、これがどんどん広がっていくのではと思っています。
杉井氏:「金融といったらお金」とか、金融機関は考え方が縦割りのように感じます。しかしブロックチェーンの技術でみると、ぜんぶ同じレイヤに乗っかっている。設計上の違いはあるにせよ、価値と価値を流通させるという意味においては、通貨、トークン、クーポン、スタンプ、ポイント、チケット、カードなど、全て同じです。
そういった情報の価値同士を交換できて、それをデリバリし、ペイメントできるというのが核心だと思うのです。誰が”価値”を今もっていて、誰がどこに動かしたかわかり、しかも二重支払いもない。仮に不正できたとしてもどちらがしたかが明らかで、その改ざんもしにくく、もし改ざんしてもちゃんと修復できて……という機能は、いろいろな産業で使われるのでは。
ブロックチェーンは、いわば「金融と非金融をつなぐ基盤」だと思います。同じ土俵の上で動かせる。セキュリティ基盤としても、同じ水準で運用可能と思います。そこは大きいですよね。たぶん(利権の)「囲い込みが重要」という話ではないのです。